放送日時 : 2014.12.31 19:15~23:45 生放送 NHK総合テレビ・ラジオ第一
実施場所 : NHKホール(渋谷区神南2-2-1)
第65回NHK紅白歌合戦におけるWLマイクの運用方法について報告する。近年顕著になっているLEDセットの巨大化によるWLマイクへの影響が今回は特に顕著であったため、その影響度および現場で行った回避策について述べる。
■WLプラン
NHKホール常設のShure社製ワイヤレスに加え、Sennheiser、SONY、RAMSA各社のWLマイクおよびWLイヤーモニターを仮設し、合計約30波のワイヤレス運用を行った。事前のテストにおいて、LEDセットがない状態では問題なく運用できることを確認している。
メーカー |
Shure (NHKホール常設) |
Sennheiser (仮設) |
SONY (仮設) |
RAMSA (仮設) |
Shure IEM (仮設) |
周波数帯 |
A2帯,A4帯 |
TV37,38帯 |
デジタル1帯 |
462MHz |
A4帯 |
送信機 |
MW1,MW2 |
SKM5200 |
DWT-01D |
WX-TR460 |
P7T |
受信機 |
MW4D |
EM?3732-ⅡP |
DWR-R01D |
WX-RR460 |
P7R |
波数 |
24波 |
6波 |
3波 |
1波 |
3波 |
(ホール常設Shureに関しては26波のうち結果的に運用可能な24波で運用)
■LEDセット
今回のセットはステージ上部に吊られた帯状のLEDアーチと、ステージ中央にやや湾曲したLEDパネルが配置され、さらに上手下手それぞれのMC位置にもLEDパネルが配置された。LEDの規模としては例年と同程度だったが、ステージを円弧上に囲うパネル形状がワイヤレスマイクに対する影響を大きくしたものだと考える。
・LEDセット全景
・セット図およびアンテナ位置
■電界状況とWLへの影響
LEDセットあり、なしの状態で測定した電界の様子を示す。LEDが原因と思われる不要電波により広範囲にわたってベースノイズが増加していることが分かる。その影響か、WLマイクの電界ピークレベルも下がり不安定になった。これにより、各種ワイヤレスマイクの受信機出力音声に通常ではあまり気にならない「キュルキュル」といった伝搬ノイズが激増し、また送信機位置によっては音声が途切れることもあった。ベースノイズの中には特定の周波数にピークがあり、それが使用するマイクの周波数にぶつかっていたため周波数の割り振りを変更せざるを得なかった。RAMSA製462MHzに関しては、送信機停波状態にも関わらずベースノイズの受信機電界レベルが70%近くあり、ほぼ運用不可能であった。
・LEDセットなし
・本番時LEDセットあり
■対策
上記のように通常では考えられない程不安定な電界状況だったが、原因がステージメインセットによるものであり根本的な対策は不可能であった。そのため運用可能な状態にするために以下の回避方法をとった。
・受信アンテナ指向性および位置の変更
仮設したSennheiser及びSONYのワイヤレスに関しては、無指向性アンテナから指向性アンテナへ変更することで不要電波の影響を軽減することができた。しかし指向性になったため受信可能エリアが狭くなったので、伝搬エリアの調整を入念に行うことで運用可能な状態まで持っていった。
NHKホールのShureシステムについてはアンテナが常設されているため調整範囲が限られたが、可能な限りアンテナをステージが見通せる場所まで移動させることでLEDの影響を少なくすることが出来た。
・状態の良いマイクでの運用
アンテナを調整したことで全体的な安定度は増していったが、中にはあまり改善されないマイクもあった。どういった条件で不安定になるのかを原因追求し、そのシーンでは別のマイクを使用するといった運用変更を行った。また仕込みWLについては、送信機が体に近づくことで電界が急激に落ちてしまうため、送信機アンテナが体に密着しないよう仕込み方を工夫した。
限りあるWLマイク本数でやりくりしているこの番組では非常に苦しい運用となったが、安定した生放送を実現するために出来る限りの対応を行った。
■ホワイトスペース帯への影響
今回のようなLEDセットの影響はワイヤレスマイク全体にわたるものであったが、LEDが発するベースノイズは周波数が低くなるにつれ大きくなっていることが分かった。(上記の電界グラフは受信アンテナ自体にバンドパスフィルター《約680MHz~850MHz》が入っているため正確なノイズ状況は不明)
今後のホワイトスペース帯への移行を考えるとLEDがもたらす影響は現行800MHz帯よりももっと厳しくなると思われる。原因が特定されているとはいえ根本的な解決法がない中で、安定したワイヤレスマイクの運用を行うためには、事前にLEDセットを含めたテストを行い少しでも安定しているチャンネルを使用するなど、運用方法で回避していくしかないのが現状である。この問題を音声グループの中だけにとどめず、不要電波を発生しないLEDパネルを使用してもらうなどの規制をかけることも今後検討していく必要があるのかもしれない。
以上
新周波数帯イヤモニターとLED・携帯電話抑止装置の共用実験会を特ラ機構をはじめ関係する団体と推進協会などにより、平成27年10月に開催する予定です。(編集部)