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社団法人 日本オーディオ協会 会長 中島 平太郎

 新世紀の幕開けおめでとうございます。
 早々と初夢をみました。それは新たに開発したマイクの夢です。
 5年前からすすめている次世代オーディオは、再生帯域の上限100KHz、ダイナミックレンジ146dBというCDの7倍以上の情報量を扱うシステムです。システム設定後、ソフトメディアは、SACDとDVDオーディオという2つの方式で商品化されましたが、供給されるソフトが質、量ともに貧弱なのが現状です。その大きな要因はソフト制作システムが整備されていないため、その第一はその入口にあたる収音マイクにいいものがないことです。そのマイクですが、21世紀ともなると、操作性や機動力からみても、ワイヤレスマイクということになりましょう。
そのマイクが、ダイナミックレンジ146dBをクリアするとなると、下限のスタジオノイズを0dBとしますと、最大収音音圧は146dBで、収音の対象となる音の殆どすべてを、何のレベル調整を施さずに丸ごと収音することができ、その出力をマイクのケース内でAD変換し、そのディジタル電波を調整室で受信し、直接マルチレコーダに記録していきます。あとはゆっくり好きなときにミクシングすればよいことになります。
 従って、スタジオやホールでの収音、調整システムは様変わりに変えられます。これをうまくやれば、音楽ソフトの新しい制作手法につながる可能性をもつものと思われます。
夢みたこのディジタル式広帯域ワイヤレスマイクを現実のものとするには、2つの高いハードルがあるようです。その1つは、そういう次世代対応のマイクがものとして実現可能かどうかということです。これは最近の精細加工技術や半導体技術を駆使すれば何とか目途が立ちそう。是非試みたいが、問題はもう1つのハードルです。それはワイヤレスマイクを取り巻く電波の法的規制です。今の制約の下では、そのスペックを満足させることはほとんど不可能です。
 もし、このマイクが実現したとすると、前に述べたように音楽ソフトの制作手法が変わり、それが新しい音楽文化の創造に役立てる可能性があるとしても、「その程度の次元」のアピールでは、法の改正は難しかろう。その難しさを君は身に沁みて分かっている筈だ、そういう開発はやめておけと忠告してくれる人もいるが、このマイクの波及効果を考えると何とか打開策はないものだろうか、何も全面改訂でなくともよい。使用する場所や時間を制限し、利用目的や利用者を限定するなど、制約条件をきびしく制限してでもよいから、フレキシブルな法規制の見直しはできないだろうか、無理とは知りつつ提案する次第です。
 もし、この程度のことがかなわぬとするならば、一事が万事、21世紀に期待したい新しい音楽文化の発信基地は法規制に柔軟に対応できるどこかの発展途上国ということになりかねない。何とかなりませんかね。夢と題しながら少々夢のない明るくない話になってしまいました。
 本年も、今世紀もどうぞよろしくお願いします。