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(株)放送ジャーナル社 染谷 清和
メール:someya@hoso-j.co.jp

 12月1日からいよいよBSデジタル放送がスタートした。各地で記念のイベントが行われたが、一般視聴者の反応は薄く、関係者の期待とは裏腹に盛り上がりに欠けていたと聞いている。聞いているというのは、実は11月の28日から12月1日までロサンゼルスのコンベンションセンターで『ブロードバンド・ワゴン』をメインテーマに開催されていた『ウエスタンショー』の取材に出かけており、この日はNBCのエンターテイメント・プロダクション分野の担当副社長ジェームス・パウエル氏の案内で、NBCが毎日HDで制作・放送しているトゥナイトショーのHDスタジオを取材していた。同番組は、人気キャスターのジェイ・レノ氏の視聴者参加形式のトーク番組で、NBC系列で毎晩11時から放送されている2時間半の人気番組。米国は時差があるため毎日VTRに収録して放送されている。客席を備えた専用の大型スタジオで、11台のHDカメラを駆使して毎日番組が制作されている。スタジオサブには、大型のプロダクションスイッチャーやHDモニターが所狭しと並び、いち早くデジタルHD放送に乗り出した米国の巨大ネットワークの象徴のようなスタジオである。しかし、このHDモニターの端に1台の4:3の現行放送用のモニターが置かれており、そのモニターを指さしてパウエル氏は『このモニターかコントロールルームで最も重要な機材。なぜなら、視聴者の殆どは現行方式でトゥナイトショーを見ている…。』と説明。折しも、日本ではHD放送が7波も放送を開始した。これは、テレビの歴史の中でも画期的な事である。開局にあたって各社目玉番組を編成した。あまりテレビを見ない小生でも見たいプログラムが目白押しである。しかし、この映像を家庭でHDで視聴している人が何人いるのだろうか。それを考えると、前述のパウエル氏のふと漏らした一言が大きくのしかかってきた。

  デジタル放送は欧州方式がリード  

 デジタル放送には、現在大きく分けて、衛星放送と地上波放送がある。また、CATVも真の双方向メディアという特長を活かして虎視眈々と覇権を狙っている。デジタル放送のスタートを切ったのは、米国の衛星放送であるディレクTVで、その後、英国のBスカイBやフランスのカナルプラス、日本でもスカイパーフェクTV等がサービスを開始している。世界的に見ると、衛星放送=デジタル放送であり、日本だけがBSというアナログ衛星放送を実施していた。そのため、今回のデジタル化にあたって大騒ぎ(空騒ぎ)となったものだが、既に日本ではCSデジタル放送が始まっており、世界的に見ればCSとBSを区別している例もなく、あえて違いと言えば、デジタル化で帯域が有効に活用できた分を、多チャンネルに割り当てたか、HDといった高画質に割り当てたかといった所だろうか。それと、データ放送や、今後行われるであろう5.1 サラウンド放送も、CSとの違いと言えなくもない。
 今年は、米国に2回、オーストラリアと欧州に各1回取材に出かけた。各国の話題の中心は、どこでもデジタル放送である。中でもデジタル放送で最も勢いがあるのは欧州のDVBであろう。今年は、このDVBのインターラクティブ放送規格

  
として『mhp』が、まとまり、9月にアムステルダムで行われた欧州最大の放送関係のコンベンション=IBCで大きな注目を集めた。

 同規格は、放送局やメーカー等42社によるグループが中心となって今年2月にDVBのインタラクティブ放送規格としてまとめられ7月には51カ国 730会員で構成されるETSI(欧州テレコミュニケーションスタンダート協会)により正式な規格として勧告された。
 DVB方式は欧州各国を始めとして、アジア・オセアニアや南米でも採用が進んでいる。孤立してしまった米国のATSCや日本のARIBといった方式を押し退け、世界のデジタル放送方式の主流となりつつある。これらの国々で共通のセットトップボックスを使用して、デジタル放送に加えてインターラクティブなデータ放送の視聴が可能となった事は注目される。特に欧州は、アナログデータ放送のインフラが整備されており、デジタル化によりアプリケーションの広がりが期待される。IBCの会場では、ソニーがオーサリングを含む放送システムを展示したり松下電器、フィリップス、ノキア等の各社からセットトップボックスの発表が行われた。また、mhpは今後、地上波デジタル放送ばかりでなく、衛星デジタル放送、ケーブルテレビ、インターネット等も包括する勢いで、NABでも見られたが家庭用テレビから携帯電話まで各種のブラウジングシステムも提案された。デジタル放送を巡る動きは、決して日本ばかりでなく世界で同時進行している。その中で、残念ながら日本は後続グループにいる。

  主役の座を狙うブロードバンド   

 今年の業界の流行語大賞と聞かれれば、間違いなく『ブロードバンド』であろう。現在の電話線やISDNと言ったナローバンドの回線を使ったインターネットから、ADSLやファイバー、ケーブルテレビといった広帯域=ブロードバンドの回線を使用し、ネットワーク経由で高画質の映像や音声を配信しようという動きである。ブロードバンドとデジタル放送が、結びついて将来の情報環境を構築しようとしている。冒頭で触れたウエスタンショーは、実は昨年まではウエスタンケーブルショーといって、ケーブルテレビ関係のコンベンションであった。今年も、内容的にはそうなのだが、テーマをブロードバンドして集客するあたりは、如何にもアメリカである。ワゴンは幌馬車という解釈もできるから西部開拓にかけてブロードバンドの主導権をケーブルテレビが握ろうという意気込みを表したのかもしれない。
 事実、米国の視聴者の7割以上はケーブルテレビ経由でテレビをみているので、放送局がデジタル放送と騒いでも、ケーブルが動かない限りは視聴者はその恩恵を受ける事ができない。コンファレンスでは、真の双方向メディアはケーブルテレビであるという事が、あらゆる部分でアピールされ、デジタルセットトップボックス用のOSやアプリケーション、サーバー等が展示された。その、一方で番組供給事業者のブースでは、ディズニーやFOX、HBO等がプレゼント攻撃を繰り広げ、好景気に沸く米国情報分野の活気を肌で感じた。お蔭で帰りはJALに段ボール箱をもらって詰めて帰る羽目になったが…。