2016年11月1日 第153号  前 目次 次
ビルボードライブ東京における電磁シールド報告

ビルボードライブ東京の電磁シールドについて報告します。
 ガラス面を含んだ空間をどのようにしてシールド空間に出来たのか解説致します。
 ワイヤレスマイクの使用可能チャンネルリストの「○」を増やすためにも参考にしていただければと思います。

■はじめに

ビルボードライブ東京といえば、六本木の東京ミッドタウン内にある、ライブレストランです。
 店内のステージ背面に、タテ9m・ヨコ16mの巨大なガラス面があり、外が見渡せる設計になっています。

店内から見る夜景が美しく、おしゃれな空間です。
 その反面、外来電波混信からどのように逃れるか、という大きな課題もあります。
 今回は、そのあたりも含めて報告いたします。

■事前電磁環境測定

店舗周辺の電波状況はどのようなものか、事前計測を行いました。
 測定場所は、ステージ中央で、測定方向は、最大到来波方向を事前測定にて決定し、東・西・南・北+最大到来波方向とします。到来波最大方向は、東北約65度でした。

■測定結果

12:00~13:00における電界強度グラフを示します。
 810Mhz~820Mhz帯、845Mhz帯のピークは、携帯電話(CDMA)信号です。
 その他、小さなピークは、北、東方向(外部方向)からの都市ノイズで、出所は不明です。「図A」

図A

21:00~22:00における電界強度グラフを示します。
 測定帯域中においては、非常に安定した電磁環境であることがわかります。
 昼間見られた都市のノイズも非常に少ない。「図B」

図B

■実施

店舗内を電磁シールドされた空間にするには、導電性の高い素材を、店舗の壁・床・天井の六面に張り巡らせる必要があります。さらに隙間なく、すべての面が電気的に接続されている必要があります。
 大きな問題として、ガラス部分があることでした。
 同時に、シールドの最終目標値を、30dBとして進めることとしました。

◇ガラス部シールド検証①
 まず、実現性の一番高い方法として、シールドフィルムを検証しました。
外(景色・夜景)が見えるというコンセプトを崩さないで、30dBの目標値をクリアするという事ができるかがテーマとなります。
 あらゆるシールドフィルムを調べ、可能性の高いものを実際の窓に施工し、昼と夜の見え方など検証しました。
 結果として、透過率の高いフィルムは、シールド性能が低く、反対に、目標値をクリアして、さらに透過率の高いフィルムは存在しませんでした。
 実地検証をみても、フィルムの種類や、光の角度により虹彩現象がみられるフィルム、夜間ミラーガラスとなってしまうフィルムなどがあり、採用するには厳しい結果となりました。
 ※虹彩現象:照明の角度や太陽の光が反射して、虹のように見えること。
 メーカーの見解によると、製品のハーフコート層は平均2μあるが、±0.01μの公差で厚みが振れただけで虹彩現象が発生するものと推定される、という事でした。
◇ガラス部シールド検証②-1
 ガラスは質量が大きいため、音の反射率が高く、そのままではライブの音環境に悪影響を及ぼしかねないという事の対策と、昼間の遮光をかねて、カーテンの設置を計画していました。また、カーテンを開いた時のカーテンだまりの関係から、中央から左右に分かれる方式で進める予定でした。
 カーテンに、電磁シールド材を合体させて、シールド性能を確保できるかという検証に入りました。
 カーテンの問題点として、どうしてもカーテンの上部、下部、左右、に隙間が出来てしまうという事です。
 他の面の導電材とカーテンの電磁シールド材を電気的につなぐため、ガラス面左右壁面に接合部を造り、カーテンの電磁シールド材の端部と接続しました。
 これにより、電気的につながることになります。「図C ガラス部 正面図」

ガラス部 正面図
◇ガラス部シールド検証②-2
 上部、下部の隙間について検証しました。多くの検証実験を行い導き出した内容を報告します。
・カーテンレールの形状と位置
 カーテンを閉じたとき(シールドが機能するとき)壁面との隙間が最小になるように、可能な限り位置を検討しました
 中央部は、シールドをより有効にするため、1000mm以上の重なりが必要となります。
 A.通常のカーテンレール(イメージ) 
「図D カーテンレール青」
    大型カーテンの場合、上記の形状で施工する場合が多い
 
 B.ビルボードライブのカーテンレール(イメージ)
「図E カーテンレール赤」
 壁面から同じ位置にレールを設置し、重なり合う部分のみ、ずれて重なるようなカーテンレールの施工ができました。
 これにより、壁面からの隙間が一定となりました。
・隙間からの電波漏れを最小限に抑える
 シールドカーテンを出来るだけガラス面に寄せられるよう、カーテンレールの位置を工夫しました。
 隙間を漏れてくる電波は、電波吸収体(ITフォーム)を使用し、減衰させることになりました。

「図F シールドカーテンレール上部」「図G シールドカーテンレール下部」

■測定結果①

内装工事が始まる前に、ステージ側ガラス面以外の部分を測定しました。
 ガラス面は、シールドアルミシート(SSシート)にて仮塞ぎを行いました。
測定結果は、
  壁 : 3F・4F・5F、において、30dBを上回るシールド性能を確認しました。
  扉 : 3F・4F・5F、において、30dBを上回るシールド性能を確認しました。
  床、天井 : 4F床、5F天井において、30dBを上回るシールド性能を確認しました。
  3F床(2か所) は、浮床施工時に中間測定を行い、30dBを上回るシールド性能を確認しました。

■測定結果②

「写真D 夜景と測定アンテナ」
「写真C 電磁シールドカーテン」

内装工事終了後、最終性能確認測定を行いました。
 アンテナ角度は、垂直、水平2種類測定しました。
 
測定結果は、
  扉 : 3F・4F・5F、において、30dBを上回るシールド性能を確認しました。
  天井 : 30dBを上回るシールド性能を確認しました。
  窓(シールドカーテン) : 30dBを上回るシールド性能を確認しました。

ガラス面に対しては、屋外からのワイヤレスマイク受信試験も、同時に行いました。

結果は

  発信点① 発信点② 発信点③
カーテン開 音声受信 可 音声受信 可 音声受信 可
カーテン閉 音声受信 不可 音声受信 不可 音声受信 不可
*一時的に受信
ワイヤレスマイク受信結果
  • ・ワイヤレスマイク測定においては、屋外(芝生、テラス)におけるイベントを想定した場合、カーテンの開閉に伴い、音声の通話の遮断が確認された。
  • ・屋外(真下)においては、一時的に、音声の受信が確認されたが、こちら側が発信していない状態であるため、大きな問題にはならないと考えます。

■まとめ

ステージバックに、16m×9mのガラス開口部がある空間で、有名アーティストによる音楽ライブを成立させなければならないということからのスタートでした。
 電波の遮断については、試行錯誤し、多くの試験を行う中で一定の効果を出すことが出来ました。
 室内の音場環境を同時に整えることが出来ましたので、ワイヤレスマイクを使わないアコースティックライブであれば、カーテンをオープンにして、ガラスの反射をさほど気にしないで使用できる環境になりました。
 ぜひ、お越しいただき、ライブを楽しんでいただければ幸いです。
なお、詳しくは「株式会社ソードクリエイティブ」と入力し検索をお願い致します。そこからお問合せもできます。

「写真B ビルボードライブ」
協力いただいた各社のみなさまに御礼申し上げます。
  ・三井不動産株式会社
  ・株式会社竹中工務店
  ・光洋産業株式会社
  ・株式会社サンケン・エンジニアリング
  ・株式会社メンアットワーク       (順不同)


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