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第26回
ビンテージマイクとの格闘
三ア 崇郎
イントロ
オーディオ雑誌に投稿して「歴史的マイクのレストア」が掲載せれているのを事務局に見つかり表題の記事を書くことになりました。チョット今までとは方向が違うと思いますが、お読みいただければ幸いです。
長年のサラリーマン生活から開放され、三食昼寝つきの毎日を送って6ヶ月、やっと疲れが抜けた12月のある日、前に勤務していたところから電話があり業務拡張のため短期間の応援依頼がありました。出向いて詳細の話を聞いていると、足元に昔のマイクロフォンが積み上げてあります。機材室を縮小しそのスペースを別の目的に使用するために、使わなくなった機材を廃棄するので、希望する人に譲るとの話を聞き、仕事の話よりこちらのほうに興味を引かれ、早速アルバイトを引き受けることになりました。
廃棄機材の中にはベロシティのRCA 44BX、77DXをはじめ、コンデンサマイクのノイマン49b、47など山積されています。
このようにしてアルバイトを始めましたが一向に機材の払い下げが決まらず、しばらく経過し、とうとう待ちくたびれて、また犬の散歩と昼寝つきの毎日を過ごすようになりました。
そうした昨年の初夏、突然希望した機材を送付するとの連絡があり、そこでいらない物は当方で処分するから全部送るように依頼し、宅急便で送ってもらうことになりました。
翌朝、運送社から電話がありこれから荷物を9個届けるとの連絡があり待っていますと、間もなく大きな段ボールの荷物が持ち込まれました。一人では持てないような大きさで、8畳の和室に入れたら荷物で一杯になり身動きとれません。運送社が電話をかけてきた意味が分かりました。
このような次第で、小生は宝の山に囲まれ幸福な人生がまた始まりました。
当方に送られてきた主なものはベロシティ6台、コンデンサ7台とその電源、硝子のデシケータ2個です。
荷物の開封と空き箱、断衝剤の始末に数日かかり机に乗り切れないマイクを眺めてはニンマリとしていましたが、これを使えるようにするために早速作業を始めることになりました。
RCA 77DX
手がつけられないほど汚れており、悪臭があるので初めに手をつけました。コネクターはキャノンのメス、これはBTS規格で一般とは逆です。
錆付いたコネクターをミクシングアンプに差し込み、ミクシングアンプが壊れたら大変ですから、オス・メスの変換プラグを使いミクシングアンプに接続し音を出してみました。
外見とは異なり音はすっきりしており、指向特性の切り替えSWはシャラン・シャランと小気味よい手触りで懐かしさで胸が熱くなりました。他の3本ともほぼ感度はかわりません。RCAマイクの特徴の茶色のコードには未練がありましたがボロボロになっているので、新しいコードに取り替えました。
本体も錆だらけで黒くなっておりましたが、丁寧にネジをはずしたところ中身は綺麗でした。巷では「77DXのリボンは使わなくても伸びる」と言われる方がおられますが、このリボンは大丈夫です。メッキ部分は色々な薬品を使って掃除をしましたが、結局台所の洗剤「マジックリン」の原液をつけて金属タワシでこするのが効果的でした。
細かいメッシュのところは、メガネ用の高周波洗浄機で水洗しましたら見違えるように綺麗になりました。
これで悪臭からも解き放たれ、机の上に飾りました。
RCA 44BX
ブームスタンドから落としたらしく頭がつぶれており、更にホルダーとその内部のゴムクッションが変質していますがこれもリボンは大丈夫です。ゴムクッションはアンプの足の大型のものを加工し、つぶれた部分は木の台にのせ、木の棒と木槌で少しづつたたき出しました。これも音質、外観とも復元いたしました。
NEUMANN M49B
製造番号はNr.1792、2591の2台。電源のNN48aはNr.546、547、1010の3台。専用コードC-26 1本で、このマイクを使用するにはマイク本体「M 49b」とその電源「NN 48a」、専用コード「C-26」、スタンドマウント付きコード「C-28」が必要ですが、手に入ったコードは「C-26」1本のみで、「C-28」がなければスタンドには取り付けられません。それでも動作のテストは出来るので、まずマイク本体のM 49b Nr.1792、電源NN 48a Nr.1010、専用コードC-26を接続し電源を入れました。しばらくしますと激しいノイズと共に音声も出てきましたので決定的ダメージはないと安心して次のマイクNr.2591と電源Nr.547の組み合わせをテストしました。
このように色々の組み合わせを行った結果、マイク本体はノイズは多いが動作はしています。電源は3台のうちNr.547は良好に動作し、そのまま使えることがわかりました。
そこでマイク本体を乾燥させることにし、ピンクに変色したシリカゲルを台所の電子レンジで10分ほど乾かし、綺麗に青くなったのを湿気を呼ばないように冷やし、デシケータに入れマイク本体を湿度17%の中で十分乾かしました。
その結果、Nr.2591は良好に働き、1792は単一指向のときは良いのですがそれ以外はノイズが出ます。調べた結果、後側のエレメントの接触のハンダが老化し接触不良となっていました。ハンダ付けをやり直し正常になりましたが、使用していたハンダは古いためか
鉛の多いものでした。
このように2台のマイクの動作が確認できましたので、なんとかケーブルとスタンドに取り付けるC-28を入手したいので、ノイマンの代理店である潟Gレクトリに相談しましたところ、ドイツの本社まで連絡していただきましたが、C-26、C-28とも製造中止で在庫がないことがわかり途方にくれました。
担当者と話をしているうちに、C-26は日本でむかし輸入したコネクターにコードを繋いで作ってくれるところがあることが分かり、またマイクをスタンドに取り付ける防振のマウントが日本で作られていることを教えられ、溺れる者にワラの気持ちで製作を依頼しました。これで故障している2台の電源の修理に専念することになりました。
インターネットでノイマンのホームページを検索し、M 49bを見つけたのでこれを参考にして回路の解釈に役立てました。
3台のうち、Nr.1010はどうしたわけか製造番号と一致せず、一番新しいはずのこの機械は一番古くシャーシー配線です。
電源トランスの一次は220v/110vの切り替え式、二次のA電源は26.5v、真空管のヒータ用でセレンでブリッジ整流しコンデンサーインプット、チョークトランスを通し、π型フィルターでこれを単三型スタビリティと称する充電可能な電池3本を直列でフローティングし4.5vの電源を作っています。
その後に2.4Ωの抵抗2本で4.0vとし、そのタップはC-26をつないで長く延長した場合の電圧降下を補正する回路があります。この単三型のスタビリティはわが国のニッカドにそっくりで、当時の日本ではまだ開発されておりませんでした。スタビリティの電圧は1.5vでニッカドは1.2vです。
B電源は145vをA電源と同様にセレン整流し、冷陰極定電圧放電管150B2で安定させ113vの高圧を作っています。
今流に言えば真空管のヒーターは安定化された直流点火、高圧も安定化電源です。
ちなみにテスターのリードがチェック中に滑ってショートし、パチッと音がしてリードの先が黒くなりましたが瞬間だったためヒューズも飛ばず、壊れもしません。業務用としてはとても安心です。
修理箇所は塩をふいたステビリティをニッカドの単三型に変換、電圧降下補正2.4Ωの抵抗を移動して3.8vにしました。少し足りませんが90mA流れ、4.0v、100mAの規格一割下です。
500μ/40vの電解コンデンサの容量不足で交換、高圧側は50μ/250vの交換と抵抗20KΩの半断線を交換し、わりあい簡単に修理できました。
Nr.546、547は基盤配線で、そのうちNr.547は社内でスタビリティをトランジスタを用いたリップルフィルタに改造され、直列抵抗を変更して100mA流したときに4.0vになるようにしてあり、ウォームアップに2分ほどかかり、初めは故障かと思いました。このリップルフィルタが「くせ者」で、後ほどマイクの中の真空管フィラメントを断線させる元になりました。Nr.546はなにも加工せずに置いてあったためスタビリティが漏液し塩を吹き基盤が緑青で膨らんでいます。Nr.1010同様ステビリティをニッカドの単三型に交換しましたがハムが取れきれずアースポイントを探して実用になる場所を見つけました。
SONY 37A
真空管式コンデンサーマイク37Aは電源のCP-3を含め4台入手しました。製造年は1961年の1ペアと製造番号からみてその後の製造年不明の1ペアで、修理したところは電解コンデンサの容量減少、コード接続部分のアース抜けとコンデンサーカプセルでした。
このカプセル不良はその原因がつかめず苦労しました。症状は電源を投入して暫くは良いのですが、その後ボコッとノイズが出た後はレベルがおおよそ10dB低下します。
そのカプセルだけなので、マイクのカバーを開けて動作させましたが、ハム誘導が激しく手におえません。根負けせずにヘッドフォーンを付け「電源ON〜ボコッ」を繰り返していましたがやっと「ボコッ」の時にダイヤフラムの一部が固定電極に吸い付くのを発見しました。ダイヤフラムの張りが緩んでいるのです。
そこで指向特性切り替え装置をスパナーで挟み、外側を手で持って恐る恐る廻してみますとダイヤフラムはキリキリと張ってきました。90度ほど廻したところでテストしましたら吸い付かなくなり、直りました。この点フィルムにスパッタリングした電極は作業が容易です。
SONY 37P
前記の37Aをトランジスタ化したものですがコンデンサーカプセルが同じなのと外観がほぼ同じなだけ内容は大きく違います。
ファンタム電源で使用するようになっておりDC-DCコンバータが内蔵され、当時はまだFETがなかったためか自社製造ICをつかっています。
故障内容はレベルが不安定でダイヤフラムには皺がよっています。前回同様に張りをだしましたが直らずその日によってレベルが大きく異なり、調べているうちに音がでなくなりました。
全部分解して回路図作りを検討しているうちにICのリード線が切れてしまい一時はあきらめかけましたが、どうせ暇な毎日ですから新しく回路を作ればよいと気を取り直し、若かったころ真空管のベースの内部でリードが切れているのを修理したことを思い出し、ICのリード線の付け根をほじくり、まだ残っていた残骸にリード線をハンダづけをして作業を続けました。
やはりマイク(?)というだけあって部品配置は非常に細かく抵抗やコンデンサの数値を読もうとしても部品を外してルーペで見ないと読めません。天気の良い日に基盤を太陽に透かしての回路探索を続け、やっと図面になりました。
これ以上この基盤での作業は基盤を痛めてしまうので中止し、サンハヤトの穴あき基盤に新しいトランジスタや抵抗、コンデンサなどを取り付け、作り直してみましたら、やはり動作せず、どうやらDC-DCコンバータの不良と見当をつけ、DC-DCコンバータをサンハヤトの穴あき基盤に作り動作をたしかめましたら発振は停止しておりました。トランス以外は正常なので、ついているトランスはそのままにしておき、別にトランスを作ることにしました。
材料はフェライトボビンに巻かれたチョークコイルで、そのホルマリン線とそのボビンを使い、むかしからよくコイルを巻いたので気楽に取り付いたのですが、以前にくらべ視力が落ちており苦労しました。その代わり時間があるので何度もやり直し、コレクタ巻数100回、エミッタ巻数10回、高圧巻数250回に決め、バラックで組み上げ約500KHzで発振させました。
さて、うまく出来たので高圧の電圧を調べようと思いましたが、テスターでは内部抵抗が低くバルボルでも駄目、オシログラフでもリードをつけると変化してしまい、電圧は測れません。
それでもマイクは順調に働きます。大喜びでバラックセットから取り出し、マイク本体に取り付けましたらまた動作しません。発振が止まってしまいました。コンバータの金属ケースが小さいので磁気回路が閉鎖されてしまう為で、ケースから頭を出すと発振します。仕方なく葉書でケースを作りエポキシ樹脂で固めなんとか出来上がりました。
取り外したトランスを分解し巻線数を調べ、巻きなおしましたがこれでは発振せず今後の課題となりました。この文章が活字になるころは多分オリジナルになっていることでしょう。
4月にNEUMANN 49bを使ってカンツォーネのPAと録音を行いましたが、事前の機材テストで電源をいれたままマイクを差し替えたところ、コンデンサのチャージのため49bの真空管を断線させてしまいました。潟Gレクトリにお世話になりやっとリハーサルに間に合いました。やはり半世紀以上も前の製品を使用するには故障というペナルティの覚悟が必要です。
今度は4v電源の半導体リップルフルターをやめ、保護回路を入れた定電圧回路とし、たとえオープンにしてもショートしても壊れない丈夫で安心して使える回路に改造します。
6月にはラテン語のミサでグレゴリアン聖歌の録音があります。49bと77DXで録ろうと考えています。
なぜ古く、大きく、重く、使いにくい機材にここまで拘っているのか時々自分に問いかけてみますが、よく表現できません。音の良さに魅せられているのでしょう。
寝ては覚め、起きてはウツツ幻の........これが「私とマイクロフォン」です。
三ア 崇郎
1933年1月23日 生まれ
1955年
同年
1989年
1991年
1993年
1999年
2004年
電気通信大学電波工学科 卒業
日本短波放送技術部入社
定年退職を考慮して高等専門学校で講師を兼務
日本短波放送定年退職
特定ラジオマイク利用者連盟事務局長
高等専門学校退職
特定ラジオマイク利用者連盟退職
再度日本短波放送(ラジオタンパ)・日経ラジオ社・デジタルタンパに奉職
退職後現在に至る
悪戦苦闘の連続の様子が見えるようでした。今はビンテージものとしてファンの多い名マイクを入手されたのは羨ましい限りです。私が若い頃、日本短波放送の2stへよく通いました。テレフンケンブランドの47は名マイクで、ヴォーカルやピアノに、44BXはギターに使わせてもらった記憶があります。コンボ編成にちょうどよいスタジオでした。 編集子
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