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三島事件とマイク |
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クレオパトラについてパスカルはパンセの中で「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界はすっかり変わっただろう」と云っておりますね。この言葉から私は三島事件、例の市ケ谷の自衛隊のバルコニーで20分にわたって国を憂い、防衛に携わる人たちに檄をとばしたあの演説のことを思ったんです。
つまり、パスカル風に云うなら三島由紀夫がマイクのことをもう少し知っていたなら、日本の顔はすっかり変わっていただろう、ということです。
三島由紀夫は芝居のことは非常に詳しい人で、ご自身も戯曲を書いていますから、あのバルコニーはシェークスピアのロミオとジュリエットのバルコニーを想像していたかも知れません。あるいは、歌舞伎で石川五右衛門が「桜門五三桐」の中の、南禅寺の山門の欄干で云うセリフ、「絶景かな、絶景かな」と云う、あのようなシーンを思って、あのバルコニーで自分の一世一代の芝居を打ってやろうと思ったに違いありません。市ケ谷は東部総監のいる場所ではありますが、バルコニーが彼にとっては劇場だったと思います。ところがマイクを使わなかったんですね。その為に声が通らなかった。ヤジが飛びました。「下りろ!バカヤロー!」ともう散々な罵声が飛びまして、20分の長丁場でありますが、彼の意図したことは一つも通らなかったと思います。
東部総監室へ戻ってきてから、盾の会のメンバーに、20分くらい話したんだが、聞こえなかったんだろうな、と口惜しそうに話したそうです。つまり20分間話したんだけれども、その片鱗も伝わらなかったというようなことから、三島事件はあのような方向へいったんでしょうか。あの時、マイクが使えたなら、まさに一世一代の大芝居、バルコニーの場面は大きく展開していったんではないかと思います。
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プレスリーとマイク |
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つい最近5月20日から“ビジネスショー2003年東京”がビッグサイトでありまして、ここでは企画部会長を仰せつかっておりますので、つぶさに会場を見ましたが、今年はみなヘッドセットタイプのマイクでしたね。ショーアップされたプレゼンテーションは素晴らしいものでありました。そのマイクというのは接話タイプでありますが、思い出しますのはスタンドマイクとプレスリーのこと。プレスリーはロックンロールのキングと言われたアメリカ南部から出てきた歌手ですが、彼はあのスタンドマイクを自分の身に引き寄せて歌うスタイルを作ったんですね。一種のジェスチャーといいますか、演技のスタイルを作りました。これもマイクのことを語るとき、忘れられないことだと思います。
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未来のマイク |
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未来のマイクですが、マイクロフォンを考える場合には、私は三つのことを考えなければならないと思います。
一つはマイクそのもので、二つは音環境のテクノロジー、三つはワイヤレス・インフォメーションテクノロジー。この三位一体の中でこれからのマイクというものは、いろいろ発展していくものだと思います。
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アクセサリーマイク |
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これは後でもお話しますが、ICマイクというものになりますと、非常に小さなマイクになってきます。そうしますとアクセサリーの中にマイクを入れ込んでしまえるのではないか、と。なにもアクセサリーでなくともヘアピンとか、イヤリングとかネックレスとか。この場合、接話条件がポイント。口にどれだけ近づけるか、という問題があります。
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ネイル・マイク |
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歌の場合はネイルマイクが出現するでしょう。コンピュータの世界ではこれからはネイルコンピュータの方向へ行くだろうと云われています。
今は手のひらサイズのものですが、もっと小さくなってネイルコンピュータ、つまり爪の先にコンピュータを接着させてコンピュータを使っていく、という方向になって行くだろうということです。マイクもきっとそうなるのではないでしょうか。ネイルマイク、というように私は名づけています。そうすると歌い手さんはマイクを口に近づけたり離したりしながら、自分の声とうまくマッチングさせながら、ドラマチックに歌を展開させていくわけですが、先ほどのアクセサリーマイクというのは必ずしも歌でなくて、音が通ればいいというような場合ですが、歌の場合はやはりどうしても口に近づけ、そして離すということが大事になります。
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サイボーグマイク |
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それがもっと進んでいきますとサイボーグマイクになると思います。サイボーグマイクというのは体の中に埋め込むマイクなんですが、その前にウェアブル・マイクについて話しておく必要があるでしょう。ウェアブル、つまり装着できるマイク。今はウェアブル・コンピュータと言って、衣装の中に取り付けるコンピュータをヨーロッパのあるファッションメーカーは考えていますが、ウェアブル・マイクの場合はアクセサリーマイクという型になるのではないかと思います。
サイボーグというのは、人間の体の中にその機能、つまり頭脳とか耳とか、そういう機能を増幅出来るように体の中に埋め込んでしまうハイテク。ロボットとも違うんです。人間の体の中に埋め込むということです。そういうマイクもこれから出てくるかもしれません。
それは必ずしもエンターティメントということではなくて、むしろ体の不自由な人たちに向けてのものではないかと思います。一種の医療行為として用いるマイクですね。補聴器というのがありますが、補聴器は装着するものですが、実際に体の機能の弱ったところをマイクでカバーしていくようなサイボーグマイクであります。
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ICマイク |
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サイボーグマイクのようなマイクが本当に出てくるのかどうかをお話するには、次世代のマイクであるICマイクを語らなければならないと思います。これはNHKと東北大学が合同で研究しておりまして、かなり具体的成果も出ており夢のような話ではなく、実用化研究途上にあるものです。それは単結晶シリコンをダイヤフラムにするということ。このシリコンは引っ張り強度の高いもので、それとバックプレートで一種のコンデンサマイクにするわけです。ダイヤフラムが非常に小さくなりまして、2ミリ平方で、米粒よりも小さいと云っていいでしょうか、そんな型になります。それでいて非常にダイナミックレンジも大きくて、しかも音質も良い。さきほど云ったように単結晶シリコンは引っ張り強度が高いですから、堅牢性もあるし、まあ理想のマイクと云ってもいいようなICマイクというものが間もなく世に出てくると思います。
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私と劇場とのかかわり |
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さて、今迄マイクの話をしてきましたが、劇場はどのようになるだろうかということです。私は冒頭に言いましたように、劇場の専門家でもありませんが、二つ三つ関わったことがあります。
一つは“つくば博のNECのパビリオン”で、双方向のシアターを企画し、実現しました。これは宇宙探検ものがたりだったんですが、見ている人たちがその場面を見て、様々な困難にその船がぶつかったときに、自分ならこういう風にして困難を乗り越えるということを発信するわけです。100人くらいの観客ですが、それぞれシートにある信号発信のボタンを使うことによって、あらかじめ出ているシナリオ通りではなく観客の気持ちそのままに画面が変わっていく、という実験的双方向劇場というものをその時つくりました。非常に好評だったんです。だんだんこのようなシアターが現実的になるのではないかと思います。
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未来の劇場 |
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インタラクティブ・シアター |
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さてそういう中で未来のシアター、インタラクティブ・シアター(双方向劇場)というのが出てくるのではないかと思います。
映像の中でのことは先ほど話しましたが、芝居の中でもあり得るのではないかと思います。それは今日の劇場というのは建築的な空間というものがあるわけですが、いわゆるサイバースペースという電脳空間を持つことになったわけです。インターネットでもう1つの仮想の空間を持つようになった。その空間を現実の舞台装置にとり入れる方向にいくのではないでしょうか。そうしますと、この舞台とのイタラクティブもあるけれど、もう1つはインターネットを介したインタラクティブなものとが掛け合わされる、と。これからのテレビはインタラクティブなテレビということになるわけですが、そのインタラクティブなテレビが劇場の方へ反映していくような時代になっていくのではないかと思います。
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ネオ・アウトドア・シアター |
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ネオは新しいという意味ですね。昔、野外劇場というのがありました。最近薪能とかあるいは薪歌舞伎とかがありますが、薪だけでは灯りが足りず照明を足し、それに音もきちっとしていないと鑑賞に堪えるものならないと思います。こういう自然の中でどのように音を造形していけばいいのか。新しいアウトドア・シアターのための新しい音のデザインというものがこれからは必要になってくるでしょう。
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ノン・ステージ・シアター |
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アウトドア・シアターの一つの形態としてノン・ステージ・シアターがあります。
寺山修司さんが、街頭劇、街の中で芝居をやっていく、ということを試みましたが、これはいささか強引すぎたきらいがあり、必ずしも成功したとは思えませんが、そういう風な形のものがいろいろ出てくるのではないでしょうか。既に街中で若い人たちが音楽をやっています。マイクがよくなれば、舞台、あるいは劇場だけのパフォーマンスだけではなくて、街の中がステージになっていく。そういう方向性になっていくのではないかと思います。
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