A型ワイヤレスマイクが認可されて早くも20年が過ぎました。放送関係であるNHKの音声を担当する私たちにとってもA型ワイヤレスマイクの誕生は大きな変革点でもありました。ワイヤレスと言えば飛びの怪しいものもあり、それなりのリスクを考えて使用して来ました。それに加えて、使用可能なチャンネル数にも制限がありました。
800MHz帯 FPU4chを使用したA帯の登場によって、コンパンダタイプで10波を超して運用可能で比較的安定した運用が出来たように覚えています。
その後の800MHz帯 FPU2chを使用したAX帯の追加認可により、20波を超える運用も可能となり、ワイヤレスマイクへの依存度がさらに大きくなりました。
NHK放送センターでは、隣接した30近いスタジオでスタジオの規模、番組要件に合わせたワイヤレスマイクの配備・運用をしています。
現在、ワイヤレスマイクは、自由な演出手法の実現と出演者の移動などの制約解消の面からもTV・ラジオ制作で、なくてはならない機材になっています。
また、大規模な番組制作では、ワイヤレスマイクの運用の調整にも細心の気を配っています。
◆ 将来に向けて
これからのワイヤレスマイクには次のような要素が欲しいと考えます。
* コンパンダ方式に代表されるような音質の劣化がない。
* 多チャンネル運用時ではチャンネルを簡単に設定できる。
* 電池の残量など送信機情報を受信側で各種データを得られる。
* 隣接チャンネルなどの受信環境を把握管理できる。
など近年の放送機材の展示会でもデジタルワイヤレスマイクの発表が多くなってきていますし、デジタルの特性を生かした、高音質・多チャンネル運用性・高機能が盛り込まれているのを見る限りA型デジタルワイヤレスマイクの世界はもうすぐそこに来ているように思えます。
また、デジタルによるステレオ素材の伝送が可能になることで、ステレオマイクのワイヤレス化などスポーツなどの分野でも幅広い運用性が生まれて来ると思います。
一方でアナログ機材に比べて、デジタル化による音声のディレーという問題点も見逃せません。
かなり小さい遅延量が実現しているようですが、音楽の世界でどのように受け入れられるか?も心配な点でもあります。また、アナログ変調とデジタル変調の混在期が少なくとも発生することが考えられますが、デジタル環境のユーザーには気にならない隣接障害などトラブル発生も心配な要素となります。
デジタル化を機にワイヤレスマイクの一層の進化を期待します。