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第24回
テレビドラマひとすじに
山本 逸美
<はじめに>
「テレビドラマの話しを中心に記事をお願いします。コーナーは『私とマイクロフォン』です」私は、「えー!」と驚き、マイクロフォンの知識も強い訳ではないし、まして文章を書くのが得意とはいえないのにと思いつつ、お引き受けした次第であります。貴重な紙面を使わせていただきながら、私の雑談になってしまう事をお許し願えれば幸いであります。
<テレビドラマとの出会い>
私は、1972年(昭和47年)東映東京撮影所の中にありました (有)映広音響(現・(株)映広)に入社し現在に至っております。
最初の仕事は(入社する半年程前からアルバイトのような形でお世話になっていたのですが)、その当時東映で製作していた『キイハンター』『刑事くん』『プレイガール』といった作品のお手伝いをさせていただきました。この3作品はこの時まだ同録ではなくオールアフレコの作品でした。私が仕事としてマイクロフォンにお世話になった最初の作品であります。とはいっても、技師さんに言われたマイクロフォンを、言われた所へセッティングするだけの話でしたが…。
その程度の私でも、同じスタジオでのアフレコ作業なのにどうして技師さんによってマイクの種類が違うんだろう、と疑問に思った事を記憶しています。
こうして私はこの業界にお世話になる事になり、中でも多くが、いわゆるジャンルでいえばテレビドラマという分野であります。
この当時は、世にいう2時間ドラマはまだ存在しておらず、1時間、もしくは30分の連続ドラマが数多く作られていました。
そして局内で作られるスタジオドラマ以外の多くの作品が映画会社もしくはその系列の製作会社で作られており、35ミリと16ミリの差を除けば画はフィルムで撮影し、音はナグラで録音するその製作行程は映画と殆ど同じでした。
私が最初に接したのはアフレコ作品でしたが、入社した頃から東映でもテレビドラマの同録作品が序々に増えてき、私も短い年数でしたが同録の現場を経験しました。
ワイヤレスマイクはまだなくガンマイクも普及しているとは言いがたく、セットもロケーションもSONY製C-38Aを重い竹竿につけて振っていました。体格がどちらかといえば‘やわ’な私は長いカットになると手は震え、腕は下がり、結果マイク鳴りで録音技師に、マイクがフレームに入りカメラマンによく怒られたものです。
それでも、1日の撮影が終わり会社に帰ってシネテープへのリーレコ作業時に自分がマイクを振った音を聞くのがとても嬉しかったのを覚えています。
そのリーレコ作業も編集部からは「早くして」と急かされ、朝迄作業をしてそのまま撮影に行った事も…。それにしても、音のクォリティーにあまり記憶というか悪い印象が残っていないのですが、C-38Aでロケーションもちゃんと録れていたのでしょうか。
そして我々の現場にもガンマイクが、登場しました。
ゼンハイザーのMKH415とMKH815、感動しました。といっても一番感動したのは、ヘッドホンを耳にうなづいている録音技師だったでしょう。私達マイクを持つ方としては「風防、結構重いな」「これに、竹竿だよー」
案の定、ロケーションで風の強い日など風防をはずす訳にもいかず、芝居を追いながらも「かんとくー、早くカットかけろー」と念じつつ手を震わせていました。
こうして現場にも慣れ、自分なりに色々工夫も出来るようになってきたある年の暮れに「選曲をやれ」と会社から言われました。
当時私は、TBS、東映製作の『Gメン’75』という作品についていたのですが、その作品の選曲を担当されていた大先輩の方が病気になられて長期療養を必要とするので、代打でやれということでした。「そんな…! 経験もない私が急に選曲なんて、現場もやっと楽しくなってきたのになー」緊張と不安で悩みもしましたが選曲に興味があった事もあり、無謀にも挑戦する事になりました。
それから数カ月、ラッシュを見て監督達と仕上げの打ち合わせが終了した後、入院中の大先輩の迷惑もかえりみず、台本と仕込みに使われていた6oテープの缶表を持って、どの劇判をどこに使うか等を教わりに病院まで押し掛けて行きました。
選曲をやるようになって約2年程現場と仕上げを掛け持ち、序々に仕上げに移行していったように記憶しています。従って、現在の現場で必要不可欠になっているワイヤレスマイクを実際の現場で経験することなく、仕上げを担当するようになりました。
<仕上げを担当するようになって>
『Gメン’75』の選曲を担当しているうちに、私を選曲としてかわいがってくれる方も出来、色々なスタジオでの仕事を経験する事ができました。
数多くのスタッフと知り合い、今でもお世話になっている方も多く、この頃の経験と出会いはまさしく私にとって最大の財産であります。
この当時まだ1時間のレギュラー作品が多く、わたしも数作品かかえて忙しくしていたわけですが、その中のあるレギュラー作品で途中の話からワイヤレスマイクを導入した作品がありました。
普通に考えればアフレコかオンリー処理であろうサイズの画がしっかり同録で録れている。客観的にラッシュを見ていた私は感動してしまいました。
「すごい!」と思いつつも「自分が現場にいる時、ワイヤレスマイクがあればもっと楽ができたのに」とうらやましく思いました。
驚きや珍しさですごく印象的であったワイヤレスマイクの初体験であります。
<2時間ドラマ>
『映広』が東映撮影所に事務所を残しつつ四ッ谷(現在は紀尾井町)に拠点を移しスタジオを持った事で、仕上げのミキサーも担当するようになりました。
選曲を担当するようになって仕上げも経験し分かっていたつもりでも、いざミキサー卓のまえに座り、フェーダーを握ってみると…。
なんと緊張した事か。フェーダー操作はもちろんイコライジングなど今思うとゾッとしてしまいます。
それでも本数をこなしていくうち、ミキシング作業にも慣れ、整音、選曲として多くの良い作品に参加させていただきました。
そして1時間ドラマの製作本数に減少の兆しが現れ始めた1970年代後半から、各局がこぞって2時間ドラマの製作を開始しました。
私の仕事の多くの割合を占めているジャンルであります。
現在のテレビドラマはフィルム収録は皆無に等しく、VTR収録つまり、デジタルベータカムかハイビジョン収録が主流です。
中でもここ1?2年、ハイビジョン収録の作品が急激に増えています。
VTR収録の現場では音声はVTRに収録するため、今では、撮影現場でメインの録音機材として永年親しまれて来たナグラは姿を消しつつあります。
最近の一般的な録音機材は
◇ミキサー卓(シグマ、クーパー等 4〜8CH仕様)
◇レコーダー(PD-4等のDATもしくはPD-6等のHDDレコーダー)
※音声はVTRに収録する 基本的に上記はバックアップとなる
◇マイク (ゼンハイザーMKH416×3〜4 MKH816×1)
◇ワイヤレスマイク(ラムサ×3〜4)
録音部のベースは小物などの配線をいれるとかなり複雑になっており、私などとまどってしまう感じですが、メインどころは上記のようなところでしょうか。
私がワイヤレスマイクの威力に驚いたのは前述したとおりですが、その当時はまだワイヤレスマイクは特別な物であり、別予算で請求出来たといった話しも聞いた事があります。しかしそのうち1波でも常時持つのが当たり前となり、それが2波になり3波になり、全て同録で処理するために録音部は頑張るのです。場合によっては6波7波と増えて行くケースもあります。もちろん別請求などは出来るはずもありません。
一寸嫌味な言い方になってしまいましたが、この状況ははからずも現在のテレビドラマの製作状況の負の1面をあらわしている気がしないでもありません。
機材はどんどん進歩していきますが、制作費、スケジュール面では厳しい状況であるといわざるをえません。
視聴率もそうですが、爆発的にヒットする作品も多くはありません。(韓流ブームはありましたが…)
私が担当している作品は2時間ドラマが殆どなのですが、2時間物のクランクインから完パケ納品までの一般的なスケジュールを、簡単に紹介しますと
クランクイン〜クランクアップ⇒約2週間
オフライン編集〜オフライン上がり⇒約1週間
音楽 効果打ち合わせ〜MA〜納品⇒約1週間
文字で書くとこんなものですが、実際に作業をやっていますと現場も仕上げも時間のなさを感じてしまうのです。
今のテレビドラマでは、俳優さんの拘束も限定されており、現場の状況がどうであれアフレコという作業を選択する事が極めて難しい状況にあります。
うるさい現場で録音技師が『音待ち』の指示を出せば、「撮影が進まない」とクレームをつけられ、「ならばアフレコしよう」と言えば「そんなに役者を拘束してられないよ」
録音技師は怒りながらも、なんとか録らなければと頑張る。
そこでワイヤレスマイクの登場となる。衣裳や芝居の動きによっては衣擦れの天敵も待っている。
それでも周りは音の事など気にせず、どんどん進行して行く。仕上げになったらなったで、私は現場の苦労も知らず文句を言う。
こんな事を何度経験したでしょうか。
制作サイドの言い分も分からないではないのですが、何となく納得のいきかねる話しではあります。
もちろんアフレコが全てではなく、芝居によっては少々状況が悪くても同録の方が素晴らしいケースは多々あります。そういった場合は、悪条件に目を閉じてでも芝居を優先するでしょう。でもそれはドラマをよくするための選択であり、間違った事ではないと思います。
こういう環境の中で仕事をしていますと、現場の録音技師と話しをする時どうしてもワイヤレスマイクの話題になってしまいます。音質も良くなり今や撮影の現場においては必要不可欠になったワイヤレスマイクではありますが、ガンマイク等と比較するとどうしてもその差を感じない訳にはいきません。
しかし、今の現場はワイヤレスマイク無しという状況は考えられません。
台本を読みつつ、冬には「北海道でオールロケ?寒いんだろうね。厚着するよねー。もちろんマフラーするなー」 夏には「みんなTシャツか。バレないかな。プールもあるの? 付けられないね」
御承知のようにドラマの場合はガンマイクにしろワイヤレスマイクにしろ画に映ってはいけません。ガンマイクはフレームの外にワイヤレスマイクは衣裳のなかにということになります。ですからこんな寂しい会話がつい口をついてでてしまいます。
でもこんな会話をしつつもワイヤレスマイクは活躍するのです。
最近では、録音助手の腕を評価する項目の一つにワイヤレスマイクの付け方が入っているといいます。皆さんそれぞれ研究しているようですが、企業秘密と称してなかなか教えていただけませんが。
少し愚痴が続いてしまいました。
しかし限られた時間、また騒音の中での作業であっても、スタッフの頑張りで良い音が収録出来、それを聞いた時は、スタッフに感謝するとともに、嬉しくなってしまいます。
<ポストプロ>
最後に少しだけ仕上げ作業の話しをさせていただきたいと思います。
最近はコンピュータ化が進み、画も音もノンリニアでの作業が日常化しています。
音に関しては、オフライン用に取り込んでからはデータのやり取りで進行して行きますので基本的にはオリジナルに近い形でフィニッシィングを迎えます。
映画、ドラマで使用するDAWはプロツールスが一般的ですが、現場のレコーダーとしてディスクレコーダーも普及してきており、今後は現場と仕上げの音のやり取りもより簡便によりスムーズになってくるのではないでしょうか。
そうした中、HDDレコーダーでの収録でガンマイク、ワイヤレスマイクをバラした状態で持ち込まれるケースも増えてきました。
この場合良い音を選択しながら整音していく訳ですが、限られた時間の中でどれだけ現場の意向に添えるかどうか、また添えていたのかどうか、多少不安でもあります。
<おわりに>
仕上げ作業が主体の私にとって、実際にマイクアレンジをし台詞を収録する事は稀ではありますが、何といっても現場の音が仕上げを支配していきます。そして現場から音を貰って整音しミキシングをしていく過程で現場の意図を感じながらの仕事は楽しいものです。
永年この仕事に携わっている私でありますが、台詞、音楽、効果音を含めドラマにとって『良い音』とは何だろうと考えてしまう事があります。分かっているような、いないような。日々精進であります。
本当にとりとめのない雑談になってしまいました事をお許し下さい。
山本 逸美
<経歴>
1951年
1972年
8月16日生まれ
(有)映広音響
現(株)映広入社
現在にいたる
<受賞歴>
1997年
1998年
2001年
2002年2005年
JPPAアワード ミクサードラマ部門 金賞受賞
JPPAアワード ミクサードラマ部門 金賞受賞
JPPAアワード ミクサードラマ部門 銀賞受賞
JPPAアワード ミクサードキュメンタリー部門 銀賞受賞
JPPAアワード ミクサードラマ部門 金賞受賞
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