さて...
 私は、放送番組の音声,音響,録音と『音』に関する仕事をしています。
 マイクロホンは道具で音の入り口として存在しています... 当たり前ですが。
 マイクロホンは自分から外に向いています... 
 モニターをしながら...あたかも自分の意識がマイクロホンの中に有って外にある『音』を見つめている,そして『音』は自分に向かってくる気がします。

かつて無線少年だった頃・・・
 小学校6年の頃に興味を持ち出し,中学生に成ると取りあえずSWLを始め、短波受信機と格闘してはリポートを書き,QSLカードを集めては壁に飾ってよろこんでいました。 
 アマチュア無線を開局して,50MHzの中古無線機を叩きながら悪戦苦闘していた頃マイクロホンは...声よ届けとばかりに自分の気持ちを送り出す道具で 『音』は外に向かっていました。

 やがて・・・
 15年ほど前、ある海水浴場で一夏通しのイベントの音響を引き受けた際に,企画としてミニFMを依頼されました。 ステージの模様を砂浜にいてラジカセから聞いてもらおうと言うアイディアでした。 一時は流行り物でしたが、制作が依頼しようとした所,実際に仕掛けを持っている業者さんがなかなか見つからなかったようで、私に「出来ますか?」と聞かれたので、「はい」と返事をしてしまいました。 返事をしたもののその頃は送信機が有りませんでしたので、取りあえずお付き合いの有ったメーカーの方にご協力を依頼しました。 この企画が数年続いたおかげですっかり「ミニFM屋」さんになり、元無線少年としては微弱のFM電波をいじくり回せる楽しみと、なんとか使い物にしようとの試行錯誤が始まりました。
 その後、人づてや、ご紹介などでミニFMのお問い合わせが良く来るように成ったのです。
 ミニFMを利用した様々な問い合わせやアイディアを伺って実用化する仕事は、取り組んで見るとなかなか面白いものだと思います。

ミニFMと言う仕掛・・・
 音声を飛ばして何かで受ける...この関係は色々あります。 
 ラジオ放送、ラジオマイク、キャッチミーなどの受令器,同時通訳器、イヤーモニター観劇.スポーツ観戦.美術館などの解説,ドライブインシアター、音声中継回線、送り返しモニター等々身の回りに以外と有り、 同報性としては小規模ながらマスメディアだと思います。
 以上の項目は、ミニFMと言う簡易な設備で可能で、条件はともかく全て実用として実施しました。 せっかくですから自分が係わった幾つか例を挙げて見たいと思います。
ミニFM 送信機

*ラジオ放送
 いわゆるミニFMです。 イベントの他、最近ではギャンブル場等でファンサービスの情報番組が有ります。 現在は常設のところが多いのですが、以前、広いボートレース場にその都度仮設をしていた事がありましたが、飛び具合の調整が大変でした。
 常設化するためのシステム設計をした事もありました。

*同時通訳
 同時通訳と観劇を足したような舞台が有りました。 
舞台で演者が原始語を使うので(かなりデタラメなアドリブ)仕方なく解説者がいい加減な通訳をしつつ場面を解説するもの...(PAには出ていません)
 袖で見ていると観客が原始語を聞きながら笑うので、何とも妙でした。
 他の別なお芝居で感心したのは、劇中女の人が電話でささやく場面、そのささやき声を加工してラジオのイヤホンだけで聴かせるのですが、実際に電話で会話をしているように聞こえて、大変リアルでした。

*解説1
 ハウジングメーカーの新工場披露で500人の招待客を100人づつに分け、特注したショルダー型のFM送信機を案内役のコンパニオンの方に肩から掛けてもらいました。招待客を解説しながら工場見学をして回り、最後にバスに乗せて宴会場にご案内と言う趣向でした。騒音の多い工場内では、両耳イヤホンは聞きやすく、声で誘導できるので一人もはぐれることなくバスに乗る事が出来、又、同時に5波を使かったのですが結果は混信もなく無事に終わりました。
 ちなみに、使用したラジオは最後に回収せず招待客のお土産に成りました。

*解説2
 ラジオらしい使い方で、将棋の大判解説が有りました。
 将棋のトーナメントを別室で解説するのですが、すぐ脇なので棋士の方の邪魔にならないよう、観戦者にラジオで聞いてもらうのですが、説明に観戦者が只頷いているだけの光景は、笑えます...失礼!

*送り返し1
 TV番組の収録で走行中の車内の収録音声をミニFMで飛ばして、ディレクターには伴走する制作車でカーステレオで聞きながら演出してもらいました。
 最近流行りは、ドラマの収録中、音声を飛ばしてディレクターが聞いています。

*送り返し2
 40人ぐらいのママさんコーラスを録音するときにカラオケと唄を耳に直接送り返すとSPを使わないのでオケのカブリがなくすっきりとした録音ができます。
 この逆で、武道館のアリーナでお坊さん千人が声明を唱えるコンサートの時に依頼されたのが、モニターSPを出すと収集が着かないのでFMで送り返して貰いたいと言うのが有りました。 準備はかなり手間が掛かりましたが良い方法だと思います。

*中継線1
 めずらしい使用法では、会場の広いイベントで放送塔20基に音声を一斉に送る為にTPの案でミニFMを使用しました。各放送塔にFMチューナーを置き3エレの八木アンテナで受ける事でゲインを稼ぎ使用したのですが、ケーブルを敷設する複雑な手間が省けたのは良いアイディアだと思いました。 似たような事ですが、イベント会場の真ん中を道路が横切っていて音声を渡す為、臨電の替わりにミニFMで渡すと言うのも有りました。

*中継線2
 音楽プロモーション撮影でアーティストの運転する車を伴走して撮るのですが、リップシンクを正確に取る為にカメラの乗った撮影車から曲をミニFMで飛ばしカーラジオで受けて口パクをしてもらい撮りましたが、同時に指示の声も乗せたので関係車両にも撮影の様子が分かり便利でした。

*イヤーモニター
 イヤーモニターの普及がまだどうなるか分からない時点では、大変良い勉強をしました。
 取りあえずミニFMで代用できないかとのお話しがあり、早速検討に入りましたが... ミニFMで飛ばすこと自体は、簡単なことなのですがイヤーモニターとしての必要条件が今まで上げてきた使用条件とは、かなり違いました。
 さる方のディナーショウでテーブルを歩き回る工夫として片耳式の送り返しを提供した事は有りましたが、本格的なイヤーモニターは経験が有りませんでしたので、手探りの状態で条件を探しました。 試行錯誤をして実験をしている内に(モタモタしていたら)、正規の物が以外と早く認可されましたので、ミニFM方式は用済みと成りました。
 もっとも、ミニFMの利用は当初より代用品でしたから、それで良かったわけです。
 但し、この件では、方法論としてのイヤーモニターと伝送系としてのミニFMの長所短所を改めて知ることが出来、大いに参考になりました。

*ミニFMに一言
 飛んで当たり前の業務用機器と比べて、飛ぶかどうかも怪しいミニFMは、付き合ってみると結構面白く思います。飛ばして受けると言う簡単な構造は、アイディア次第で様々な利用法が有ると考えているのですが...  元無線少年の戯言でしょうか...
 所で、ミニFMが良く飛ぶ方法を一つ上げるとすれば... それは、成るべく性能の良い受信機(ラジオ)を使うことです。

最近思うこと1
 ディジタル機器が増えても、今のところ出口のスピーカーと入り口のマイクロホンはアナログのままです。きっと後百年経っても変わらないかもしれません。
 とにかく自分がこの仕事をしている内は変わらないと思っていました。 ところが新聞で「光マイクロホン」の技術レポートを読んだ時は、「むっ,来たか...ついに」と感じましたがその後まだ世の中に出てこないので、気にはなりますが、まだまだアナログだと思っています。 
ミニFM アンテナ
最近思うこと2
 ドラマを撮るときに、仕込みのワイヤレスマイクは、必ずと言っていいほど登場します。
 個人的には、成るべく使わない方法を探します。編集でオンリーを差し替えるとか...テストの時の竿の音を使うとか... 結局、その場の状況で仕込みを使わなければならない事が多々あります。 音はモガルし、衣擦れは有るし...もう少し仕込みに向いたマイクヘッドは無い物かと思いますが、残念ながら有りませんので色々と工夫を重ねてしのいで居ます。仕込まない事に越したことは無いわけですが...ま、便利なワイヤレスマイクも万能では無いと言うことでしょうか。

締めくくり
 先日友人のエンジニアから「RCA77DXの出物の話が有るぞ!」と電話が有りました
 今のところ1本は有るので余り興味は沸きませんでしたが、そんなことより今自分たちが使っているマイクロホンがやがてビンテージ物と呼ばれる頃には、いったいどんなマイクロホンが現場で使われているのかと思うと考え込んでしまいました。 会社でも古い物は30年近く使用していますが、やがて壊れ修理不能、代替え無しとなった時にどうなるのか???等と少し心配してます。新しい物にも興味は有り、機会ある毎にテストをしていますが、今ある物を大切に使うのが必定とと言う事でしょうか。

注: ここで言うミニFMは電波法上に規定されている微弱電波のことです。
微弱電波の定義は標準の送信アンテナから3m離れたところで標準のアンテナで受けた電界強度が500μV/m(322MHz以下の場合)となっています。


八木 正広
昭和26年11月16日生まれ
株式会社 交 音 社 代表取締役

昭和47年 3月 東京写真大学卒
昭和58年11月 褐音社 取締役
平成 元年 7月      代表取締役

日本映画テレビ協会 会員
日本工学院八王子専門学校 放送芸術科 講師