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 去る11月14日〜16日までの3日間幕張メッセにおいて、2001年国際放送機器展(Inter BEE 2001)が開催されました。3万人規模のこの見本市は、主に放送局で使うプロフェッショナル仕様の機器全般についてのもので、世界的にも認知されており今年で37回を迎えました。
 昨今は、放送局関係者以外のユーザーにも関心がもたれており、例年賑わいをみせています。初日に会場をのぞいたので報告します。

 BSディジタルの時代になって久しいわけですが、刻々と迫ってきた地上波ディジタル放送の開始に向け、送出装置や受信機の技術レベルが一段と上がり、製品の低価格化をも伴って、去年までの開発段階から、実用段階に切り替わってきたように思えたのが今年の印象でした。
 OFDMのディジタル送信機などFPUの送受信装置も小型化がはかられ、機動性に富んだものも見受けられました。また、カメラなどもHDTV(高精細度テレビ)対応の機器が増え、テレビ受像機の高度化とあいまって、ハード面も成熟しつつあるようです。
 プロ用放送機器をとりまく周辺機器にも面白いものがありました。人間の動きをカメラに撮りコンピューターで解析し、それにCGアニメのキャラクターの動きを同期させることができる装置です。リアルタイムで行えることから、演出家が要求する細かい動きも意のままに表現でき、より人間の動作に近づけることができるわけです。こういった加工や編集といった作業が、コンピューターによって容易にできるようになったのはディジタルの大きな特徴といえるでしょう。
 プロオーディオについては、ディジタルマイクロホンを出品している海外メーカーに目が向きました。音声信号自体はアナログですが、A/Dコンバーターによってディジタル信号変換し、130dBものダイナミックレンジを実現したとのことです。インターフェイスが別に用意されており、マイク出力データを受けAES/EBUで出力できるので、コンピューターに接続することにより、マイク本体についているポーラーパターンやローカットの切り替えなどを、一本一本マイク本体で調整する必要がなくなり、現場での省力化につながるというわけです。またディジタル信号化しているのでマイクケーブルの引き回しによるノイズの発生も抑えられるので、クリヤーな伝達が望めそうです。そういえば、ディジタルの初期に、ある海外メーカーがディジタルマイクを商品化したことがありましたが、ディジタル技術自体がまだ甘かったこともあり市場ではほとんど認知されなかったようです。今回ヘッドホンで試聴しましたが、ディレー感はさほど気にならず、価格次第(価格は未定)では受け入れられそうですが、費用対効果については、今後の課題となるでしょう。
 
 ブロードバンドの時代になって、ストリーミング映像の送受信が手軽にできるようになりました。せんだってのアメリカテロ事件に関連した情報も、大掛かりな装置なしに中東の現場から静止衛星をとおして容易に発信されました。世界中の人々がディジタルの恩恵に浴している良い例ですが、新しい技術が次々と台頭してくることによって、著作権の問題など解決しなければならない問題をかかえつつ、その先を行く新技術が生まれ実用化されるという現状を手放しで喜んでいいものなのか。じっくりと醸成させながら新技術を固定させていくことも必要なのではないでしょうか。
 今、ADSLの人気が高まっています。アナログ電話回線を利用することにより、ディジタルであるISDNよりも通信速度が速いなど性能的に優れているわけですが、はたして、ディジタルはアナログよりあらゆる面で進んでいるといえるのでしょうか。ディジタルの草創期には『ディジタルからアナログへ』と盛んに言われました。その後アンチテーゼとして、『ディジタルからアナログへ』と逆流するような考えもでてきました。現在は『ディジタルとアナログへ』と言えはしないでしょうか。新しい発想や技術を生む背景には、それぞれの良いところを認めあうことが重要であるということを、この例が示しているように思います。
 
 11月下旬からニューヨークで開催される予定だったAESコンベンションが、テロの影響で延期になったりで、海外からの来場者数の減少が懸念された今年の機器展ですが、総入場者数は前回に比べ微増したということです。成功したと言っていいでしょう。
(青木)