|
日本でもワイヤレス・イン・イヤー・モニター(以下イヤモニと略称)が使えるようになりました。といっても海外で使用されている機器がそのまま使えるわけではありません。 平成12年5月17日電波法の無線設備規則の一部改正とそれにともなう郵政省告示がありました。、イヤモニは、日本の法規上では「イヤー・モニター用ラジオマイク」と呼ばれます。電波法規に決められた技術条件を充たし、技術基準適合検査に合格した機器でなければ日本では使えません。「技術基準適合証明書」をそえて郵政省に陸上移動局の免許を申請、無線局免許状を取得して運用となります。 従来のA型ワイヤレスマイク(特定ラジオマイク)と同じに免許は必要ですが、日本にもイヤモニ時代が到来しました。舞台が変わります。 [ワイヤレス・イン・イヤーモニターの要望] 海外でワイヤレス・イン・イヤー・モニターが初めて使われたのは、1985年のスティビーワンダーの公演といわれています。その2,3年後、日本でも微弱電波を使ってコーラスの歌い初めのサインのクリックを送る「イヤモニらしいもの」が使われています。1986年の電波法改正で現行のラジオマイク制度が施行され、1989年には特定ラジオマイクが生まれました。時代とともにコンサートはショー的要素が加わるにしたがって、ますますイヤモニの需要も高まり、海外ではコンサートの必需品となりました。 1996年6月のプロオーディオ機器展では、ワークショップで「コンサートにおけるワイヤレスイヤモニターシステムの提案」のテーマでパネルディスカッションを行いました。これが日本でも「イヤーモニターを使いたい」という正式な要望の第一声だったと思います。そのあと関連業界の担当者が集まり1988年までに7回ほど勉強会や打ち合わせ会を開いています。 特定ラジオマイク利用者連盟は業界の窓口として、郵政省に「イヤーモニターの早期実現」を訴えつづけました。一方、「ワイヤレス・イン・イヤーモニターが使えないなら日本公演はとりやめる」という例もあり、コンサート音響を扱う会社からは「このままでは死活問題」という声が出る、ぎりぎりの段階に来ていました。 [ワイヤレス・イン・イヤーモニターの審議] 郵政省の諮問機関の一つである電気通信技術審議会(電通技審)は昨年(1999年)5月24日「1.2GHz帯以下の周波数を使用する小電力無線設備の高度化のための技術的条件」について、審議を開始しました。小電力無線設備とは空中線電力10mWの無線局で無線電話、データ伝送等多くの情報関連機器に利用されワイヤレスマイク(ラジオマイク)もこれに含まれています。この制度が出来て10年を経過、ますます高まる需要とニーズに対応をするため、設備の高度化と、より柔軟な活用を可能にする技術的条件の検討が目的でした。主な内容の一つにラジオマイクのステレオ化があり、その中でワイヤレス・イン・イヤモニターの実現を検討しようというものでした。 詳細な審議を行う分科会として電通技審の小電力無線設備委員会にラジオマイク分科会が設置され,これをサポートするとともにラジオマイクに関するARIB規格の見直しのために社団法人電波産業会(ARIB)の規格会議小電力無線局作業班の下にラジオマイクWG(ワーキンググループ)が設けら本格的検討に入りました。分科会、WGには、賛助会員の各社のほか特ラ連からも理事長、事務局長がユーザーの立場で加わりました。 とくに技術規格を細部まで検討するARIBのWGは6月から10月までに7回の会議を重ねA4判40ページに近い中間報告書を作成。これを基に電通技審・ラジオマイク分科会で技術基準のとりまとめが行われ11月29日の電通技審を経て郵政省に答申されました。審議が始まって6か月で答申というスピードでした。イヤモニ検討の中で大きな問題となったのはつぎの3点でした。 (1)使用周波数帯 (2)空中線出力とサービスエリア (3)運用連絡と調整 高度化を検討されたのはラジオマイクばかりではありません。テレメーター(遠隔計測)、テレコントロール(遠隔操作)データ伝送等々多岐にわたっています。短期間に集中討議を重ねた関係者の努力もさることながら、答申の該当機器に対するニーズが、それだけ切迫したものだったことが窺われます。 電通技審の答申に基づいた規定整備を行うため「無線設備規則の一部を改正する省令案」について電波監理審議会に諮問(平成12年1月21日)、同年4月21日答申。5月17日「無線設備規則の一部を改正する」省令が公布、施行、同時に関連告示も出され、日本のイヤモニは正式に動き出しました。 電波利用システムの標準規格(ARIB STANDARD)の改正(7月予定)も行われ日本のイヤモニ制度は整いました。 [特定ラジオマイクの中のイヤー・モニター用ラジオマイク] 今回の電波法規の改正で無線設備としてのイヤーモニターは、特定ラジオマイクの範疇の一つとして位置づけられ「イヤー・モニター用ラジオマイク(舞台で使用するモニタースピーカーに出力される音声及びその他の伝送を行うラジオマイクをいう。)」と呼ばれることになりました。 イヤー・モニター用ラジオマイクの技術的条件はどのように決まったか、法規の改正と合わせて主要点をまとめてみます。
イヤモニは独立してあるのではなく特定ラジオマイクという枠組みの中に入ります。したがって使用周波数と空中線電力は特定ラジオマイクと同じです。同じ周波数帯の中にFPUと合わせ三つ巴で共存することになります。 前述しましたとおり検討中にも「別途の周波数、出力のアップ」は議論されましたが、今回の諮問は「小電力無線設備の高度化のため」が目的であり、現状ではいずれも無理ということでした。この機をのがせばイヤモニの実現はまた遠のいてしまいます。 業界からのイヤモニ早期実現の要望は「特定ラジオマイクの中での可能なのでは」という議論から出発している。等々からいたしかたない結果と思います。 通信方式 同報通信方式 無線設備規則第49条の16の1号が改正され、従来の「単行通信方式」に「同報通信方式」が追加されました。単行通信だけの場合は、同じ音源内容の伝送を希望する受信者がいるときは受信希望者ごとに別なチャンネルが必要になります。同報通信も合わせて可能にしておけば、同一周波数の受信機を増設するだけで、同じ音源については1つのチャンネルで送信可能になります。イヤモニにこの方式は欠かせないものです。
無線設備規則第49条の16の4,5,6各号に「ステレオ伝送方式のものにあつては……」とステレオ伝送が可能になるとともにその技術的条件の追加が行われました。「イヤモニはステレオで」という強い要望から特定ラジオマイクのステレオ化が実現。高度化を目指した今回の改正の一番大きな項目でもあります。 空中線 複数アンテナの分散配置が可能 特定ラジオマイクは無線設備規則第49条の16の2で「一つの筐体に収められていること。」同16の9で「給電線及び接地装置を有しないこと。」と定められ、送信アンテナは機器本体への直付けしかできできないことになっています。これを今回の改正では郵政省告示(第315号及び第316号)で「特定ラジオマイクの陸上移動局の無線設備の一の筐体に収めることを要しない装置」と「無線設備規則第49条の16の9規定を適用しない無線設備」に、イヤー・モニター用ラジオマイク(この告示で初めてこの名称が使われています)が加わり、イヤモニの場合は分配装置や回線補償装置を使って、かなり自由なアンテナシステムが組めるようになりました。 空中線電力10mWでステレオ伝送するとサービスエリアはかなり小さくなってしまい、大きなホールなどでは舞台全域をカバーできなくなります。これを補償するためにとられた処置といってもいいと思います。 別表に特定ラジオマイク(A型ワイヤレスマイク)とイヤー・モニター用ラジオマイクの技術的条件の比較を、また別図でイヤー・モニター用ラジオマイクの送信空中線の分散配置方式の構成例を示します。 [三つ巴の運用調整] 運用調整をどうするかも、前述の通り検討時に問題となった一つですが、電通技審の報告書には「800MHz帯FPUとA型ラジオマイク間、及びA型ラジオマイク相互間の混信を避けるため、特定ラジオマイク利用者連盟が運用調整を行い、円滑な利用が行われている。イヤー・モニター用ラジオマイクについても、利用する場所や利用者はA型ラジオマイクと同じと考えられることから、A型ラジオマイクとして位置付け、これまでのA型ラジオマイクと同様の運用調整の下で利用することが周波数の有効利用の観点から適当であると考えられる。」と記されています。特ラ連の運用調整の実績がこのような報告書で認められたことは、これまでの努力の成果であり、光栄なことですが、今後のイヤモニも含めた三つ巴の運用調整を考えると責任の重さを感じます。 会員ならびに放送局のみなさまの一層のご協力をお願いする次第です。 別表 イヤー・モニター用ラジオマイク特定ラジオマイク(A型ワイヤレスマイク)技術的条件の比較
|