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 去る6月8日の17年通常総会で行われました、鈴木祐司氏のセミナーを紹介します。地上波デシタル放送の現状と課題にインターネットが如何なる関係になるのか、ライブドアー騒動を絡めて、現状認識を明確に解説していただきました。

鈴木祐司氏のプロフィール
 1958年生まれ、1982年東大卒と同時にNHKに入局、地方局を経験されて、1997年NHK放送文化研究所へ。現在は同所主任研究員で解説委員も兼務されています。

ユビキタス社会と地上波デジタルテレビ放送とは
 タイトルは大変難しいので、当惑気味です。ここでは技術系の人が多いと思いますが、私は文系で正しくアナログ人間、技術的には疎いので歯に衣着せぬお話が出来る事もあろうかと思います。ユビキタスがどうであれ、基本スタンスは人間がやっていくことなので、世の中が劇的に変わることはないと考えています。

ユビキタス社会とは何か ――――――――――――――――――――
 「ユビキタス」の語源はラテン語で「遍在する」という意味で、ゼロックス社員のマークワイザー氏が1991年に技術的な視点から論文を発表した事に始まりました。
 日本の政策面からは1994年に高度情報通信社会推進本部を立ち上げ、2000年にIT戦略会議が具体的に動きだし、e−japanとなりインフラの整備、更に利活用の段階と進み、2004年には当初の目的であった3000万世帯が高速インターネット接続可能となりu−japanにつながっている。
 ユビキタス社会とはコンピュータが至る所にあって、それがネットワークで繋がっている社会です。
 電波は有限資源でユビキタス社会にとっても必要不可欠のもので、現在の地上波アナログ放送をデジタル化して、あいた周波数帯を移動局用に再配分をすることになった。
 この地上デジタル放送は2011年4月24日に本格運用にはいる計画である。

地上波デジタルテレビ放送の現状と課題 ―――――――――――――
 2003年12月地上波デジタルテレビ放送の開始と共に出荷状況は順調に推移し、今年の4月には412万台に達し、普及の評価は、半数の放送関係業者が順調と答えている。
 国の政策としては、2011年7月に地上波アナログ放送を停波した時点で4800万世帯、1億台のテレビ受信機をデジタル化しなければならない。
 普及予測を見ると、2006年のワールドカップドイツ大会までに1000万世帯、1200万台となっている。今年の4月で412万台であるから、3倍程度の出荷台数が必要となり、デジタルテレビ放送を完成させるにはハードルが高い。
 番組を作り・送り出す側から見ると、デジタル化は順調に進んで、今月末で2040万世帯までカバーしている。2006年12月で3700万世帯までは順調であるが、その後については問題点がある。それは電波を出す中継基地局は15000局ある、これを全てデジタル化することは多分出来ない。その結果、家電、CATV、放送事業者の世帯普及予測は4800万に対して3600〜4200万の普及で、台数については1億台の受像器に対して7000〜8000万台の普及と見ており、JEITAの普及予測も国の目標値までは市場原理が働いて達成は困難であるとしている。
 このことをまとめるとデジタル電波が全ての家庭に届かない、受信機が出荷できない。と、すれば何か政策がなければ駄目だという地上波デシタルテレビ放送の課題がある。



視聴者の現実 ―――――――――――――――――――――――――
地上波デジタルテレビ放送の認知度と視聴意向
 地上波デジタルテレビ放送と言う言葉を聞いたことのある人は2005年で93%と認知度はある。しかし視聴者意向として見たくないが30%もいる。
 視聴者の実態では、積極的に見たい11%、やや消極的が36%、消極的31%、見たいと思わないとわからないが22%、この22%が頑固な旧守派である。
 デジタル受信機購入の理由としてHDで見たいが圧倒的で50%、あとは買い換え時期だったが、CATVを見たいので買ったら見えた等の消極派である。
 デジタル受信機でHDを見たいと買ったのに、デジタルがほとんどかどっちかと云うと見ているが23%しかいない。ほとんどかどっちかと言うとアナログを見ているが56%もいる。
 高価で高性能のデジタル端末を買ったのに何故アナログを見ているのか。
 アナログの方が使い勝手良いのである。80年代後半から90年代前半にかけてリモコンが普及し、ほぼ100%の導入になった。その結果「雑ピング」と言ってチャンネルをカチャ・カチャ切り替えることになった。
 アナログは一瞬にして切り替わるが、デジタルはその特性上から1秒は掛かってしまう。このわずかな時間と、黒味が出るなどの違和感がある(HDのソフト不足でアナログ525のアップコンでレターサイズ等の上下左右の欠落黒味の事)、リモコンが使い難い、ボタンが多すぎるなどのデメリットが多く、結果アナログ視聴になってしまっている。
 購入から満足までの流れを見るとデジタルで見たいという積極的購入2/3、消極的購入1/3で、満足度は1/3になってしまう。デジタルについてはこの満足度の改善をしなければならないのではないか。
 幾らだったら買うのか、2010年にはインチ5000円になっても、16%の人達は無理して買わないと云っている。また、見たいと思わない層に対して理由を聞くと「今ので充分である」もうテレビは満腹である。それに加えて、高低低不利層(高齢者・低所得者・PC低利用者・条件不利地域居住者)をどう引きつけるかが問題である。
 地上波デジタルテレビ放送の視聴意向は年齢の増加と共に見たいとは思わなくなる。60代以上の半分の人は見たいと思わない、特に女性は57%に達する。更に、低所得層(年間所得200万(年金層)からそれ未満以下)は見たいと思わないが半分である。
 テレビだけが社会情報の基本を得るものになっている福島県の昭和村で調査した。高齢化率は50%を越える村である。
 その村で2011年アナログ停波については大都市並みの認知度である。この人達がデジタルテレビを買ってくれるかとなると年金生活(年収200万)している人達の多い村では半分強の人が5万円以下でないと買わないとしている。この様な地方の実態をどうしていくのか。主婦連の考えでも、情報高度化に付いて行ける若い層と年寄りは従来のテレビで良しという2極化するとみている。

放送サービスの展開 ―――――――――――――――――――――――
 放送局は中継局のデジタル化の整備などに金がかかり、収入はあがらない、良い番組制作に金が回らないという現実がある。
 そんな中にあって、バラ色と思われているのが1セグ放送を携帯電話で地上波デジタルテレビ放送を受けるものである。放送・CATV・広告業界では、この1セグ放送と車載テレビは100%近く普及するとしている。また、携帯電話もしくは車載テレビがリモコン&通信で情報提供するものが普及すると考えられている。
 地上波デジタルテレビ放送を13セグに分けて、12/13はHV放送1/13を携帯電話向け放送とする、携帯電話の画面半分はテレビ放送、後の半分はデータ放送画面で、携帯電話なので当然通信は出来る。こうなるとテレビは家庭内から戸外へ(地上波デジタルテレビ放送で安定した画像が見える)、放送と通信が合体して新しいビジネスとして立ち上がっているし、多くの人達は携帯電話とテレビが連携することを期待している。

インターネットとテレビの関係 ――――――――――――――――――
 今年の2月8日突然、ライブドアーの堀江氏(「ホリエモン」)がニッポン放送の株を大量に買って、フジテレビに揺さぶりをかけ、経営陣を驚かせた。
 彼はネットと既存メディアの「融合」をめざすとして、テレビとインターネットがどうなるか話題に成ったが、70日で妥結して「融合」の話はうやむやになった。その後JR西日本の事故が発生したりして、話題にならなくなってしまった。
 ライブドアーが何故フジテレビをターゲットにしたのか。売上額はネット3社合わせてもフジテレビの方が多い。経常利益では、放送局は在京キィー局合わせてもインターネットの半分しかない。放送局は毎回番組を作る形態なので儲けはうすい。これに反してネットは一度コンテンツを作るとそのアクセス数が多くなればなるほど利益は何倍にも成る。ネットは利益が多くなる構造で放送局は限界がある。
 ネット3社の時価総額は大きく、資金調達が可能で株を買うことは容易である。ヤフー1社でも在京テレビ局5社を買うことが可能である。放送局がデジタル化で大変な時に、資本の論理では、後ろから飲み込まれてしまうのである。
 その後、敵対的買収対応策などが講じられる様になった。
 このような「融合」については、90年代に電話と放送の「融合」が話題になった。電話はIPに入るが放送は簡単に入らない、何故なら@遅延があるA10のマイナス6乗で情報の欠落が起こるB安全性を保てない、等で社会的に責任のおもい放送には向かない。更にCIPのコストはテレビの様に2千万世帯を相手にしたら、経費は2ないし3倍も掛かってしまうので放送には勝てないD著作権問題が複雑に絡んでくる。
 これはインターネットにも当てはまるので、この先10〜15年は放送がインターネットに飲み込まれることはないだろうと思う。
 堀江氏はこのことを知らなかったのか、ご本人にあってお話を聞いたが理解していた。ならば何故、「融合」を声高に云ったのか、本音はビジネスにあったのではないかと思う。
 例えば、ネットとテレビ・キィー局が共に300の経常利益を得る為に今の経常利益率を当ててみるとネットは1千、テレビ・キィー局は2千5百の売上が必要になる。
 ネットとテレビ・キィー局の連携で、テレビ・キィー局の放送を利用して放送局のネット網とホームページなどの宣伝効果を利用することで50〜100%の売上増が期待できる、この力でインターネットは利益大幅増になるが放送局だけでは血みどろの努力をしてもあり得ないものである。
 このように「融合」した方が早く儲けられる、ネットから見ると知名度UP、アクセスUP、ビジネスUP、売上UP、利益UPの循環に持って行きたかったのではないだろうか。
 インターネット各社の持っている検索サイドがあるが、ヤフーは利益率50%、楽天は利益率34%であったが、昨年3月のプロ野球団の買収に絡んで楽天、ライブドアーが知名度を上げたのでアクセス数が倍加して、ヤフーに近づきつつある。これは堀江氏の狙い通りであった。
 今後期待される「融合」は、高速通信である光ファイバーによる放送と通信の「融合」で、既に東京、大阪の高層マンションの一部に導入されている。また携帯電話とテレビの「融合」などがある。

テレビの不安要素 ――――――――――――――――――――――――
1.少子・高齢化現象
 生産人口減少の問題と、テレビにとっても広告効率の主力であった、20歳〜34歳(男女)層の減少に伴い、東京キィー局の若者中心の番組制作は地方局にとっては迷惑だとなり、ネットワークのあり方にも問題が起きるのではないか。
2.デジタル録画機の出現
 JEITAの調べでHDD内蔵が大幅増になっている、2009年には2/3の世帯に普及するとしている。
デジタル録画機は15%の人が持っている。その利用方法は、CM飛ばしが半数近く、次が見たい場面だけで、これはニュースだけでなく娯楽番組でも行われている。「雑ピング」もその仕方がデジタル録画機の出現で、民放の番組制作にも変化が起こってくる。
3.民放のCM収入
 努力することで減ることはないと思われる。CMとばしの対抗策として「バーチャルCM」、「プロダクト・プレスメント」等の手法導入が考えられる。
 この50年間のCM収入はテレビが微増、雑誌は若干増、インターネットは急増、ラジオは下落して昨年インターネットに抜かれた。

まとめ ―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネット時代はインターネットが送り手と受け手との間に入って、蓄積と変換という機能を持っている。そして受け手が自由自在に必要な情報を取ることになる。
 ユビキタス時代に向けて、放送のデジタル化が迫られたが、課題も多い。デジタルテレビの新しいサービス展開を見ても完結とは限らない。携帯電話と例えばアナログテレビと言う異質な物の連携が有望視されている。
 テレビには情報も、娯楽も、暇つぶしも入っている、正面切ってインターネットとぶつかり合うことなく補完共存していくことになると思われる。
まとめ  田中章夫

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