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 7月2日特定ラジオマイク利用者連盟通常総会のおりに行われましたセミナーの概略です。当日受講者は70名を超え、目前にせまったテーマだけに皆さん熱心に耳を傾けておられました。紙数の都合上セミナーの一部であることをお許しください。

 放送というのはCS、BS、地上波、CATVの4っがあります。日本では1996年CSデジタル放送が始まりましたが、アメリカに遅れること2年後、世界的にもかなり早い段階でデジタル放送が始まっております。2000年12月、NHK,民放キー局参加のBSデジタルが始まっており、デジタル放送が本格的に始まったともいえましょう。
 2003年東名阪の3大広域圏でその他の地域で2006年に地上波がデジタル化されるわけで、これがデジタル化の本番、と位置付けられるかと思います。これ以外にもケーブルTVが10年くらいかけてデジタル化されるわけですが、実は最近ここにもうひとつ、厳密にはまだ放送とは云えませんがブロードバンドというのがどうなっていくのか、これが放送のデジタル化に大きな影響を及ぼす、ということが出てきており、従来の4っの放送プラス、ブロードバンドということをお話させていただきます。


1 BSデジタル
 BSデジタルは2000年12月1日にはじまりました。放送業界はBSデジタルは1,000日で1,000万世帯を目標にすることで始まりました。しかし、1,000日、1,000万世帯は現在きびしい状態にある、ということをお話しておきます。
 図(1)を見ていただきますと、2000年12月急増しております。しかし残念ながら2001年5月から低迷期があり、12月に少々上がりました。このように波があるわけですが、大きく見てみますと、今年5月末で291万です。昨年の1月以降、月間大体10万前後くらいの増加で来ているわけです。残り今日(7月2日)から421日で1,000万世帯を達成させるには、月間50万ほどなくてはならないわけで、現状のペースの5倍ということになります。
 1,000万世帯はあくまでも目標で、達成できなかったらどうのという問題ではありません。
 ではこのペースはどうなのかと言いますと、1年半くらいの間に300万売れたという新製品はペースとしては決して遅くはありません。BSアナログの時は10%達成するのに4年かかっています。BSデジタルは1年半で300万ですので悪くない。iモードに次ぐくらいのスピードと思います。ですがBSデジタルが1,000万達成できないと若干困る方がいます。それは何かといいますと、民放キー局系の5社がデジタルを始めるとき、事業計画を作りました。その中で1,000日1,000万世帯というものを前提に収支予定を立てたわけです。計画では1月あたり4〜6億くらい収入があると、これを達成していくという目標だったわけです。
 実際はどうだったかというと、普及が進んでいるにもかかわらず、収入が伸びてきません。各社3〜4億で予定より下回っています。しかも最初の月はご祝儀ということもあってスポンサーが沢山つきましたが、徐々に想定と違うということでスポンサーが後退しはじめています。広告単価も当初よりは下がってしまいました。というようなことで、最終損失が予定通り減っていかない。BSデジタルは決して普及が遅いわけではないですが、このような状態です。
 今年の2月に世論調査をしましたが、視聴者の側からいいますと、9割の人が聞いたことがある、と言っています。中味の認知度は4割しかないのです。受信機については8割の人が当面買わないと答えています。価格差については現在より2万円くらいまで下がってくれれば買ってもいいという人が4割です。番組の中身もさることながら、値段が高いということで普及につながっていかない、ということが分かります。



2 110度CSデジタル(110度=東経110度)
 これがBSの現状ですが、BSデジタルの普及にプラスになるだろうということで、今年の春から110度CS放送というのが始まりました。この110度CS放送に民放キー局5社は全てチャンネルを持っています。
 BSデジタルと110度CSは同じアンテナと同じ受信機で見れますので、BSデジタルの15%〜20%くらいの人が110度CSへ加入するんではないかと民放キー局のみなさんは計算して事業を始めています。ところが実態は4ヶ月くらいで1万でした。この間にBSデジタルは約20万くらい増えたんです。20万くらいの方たちはBSデジタルと共用受信機だったはずなんですが、結果、1万くらいしか加入していない、当初の思惑よりかなり低い数です。



 スカーパーフェクトTVは124度と128度から放送しました。しかしなかなか普及が遅いということで、事業者が是非BSと同じ110度から放送したい、と。110度と同じアンテナ、同じチューナーで受けられるから普及が早いだろうということ、それと約1,500万近くあるBSアナログの人たちがBSデジタルに移行するだろうということで、110度CSデジタルは放送事業者の要望で始まったことです。ところが、BSデジタルを見ている人が110度CSデジタルへ移行するだろうというような単純なはなしではありませんでした。
 なにかといいますと、BSアナログやデジタルを見ていた人たちの昨年12月頃までに立てたアンテナのほぼ全てが110度CSに対応していませんでした。110度CSを見るためにはチューナーを買うだけではなくて、アンテナも立てなおさなければならない。実はアンテナだけでは済まないいんで、集合住宅の典型で、アンテナからチューナーの間にブースターとか、分配器とか様々な機器が入っている、これがほぼ全て110度CSに対応していません。ということで理屈の上で同じアンテナ、同じチューナーで受けられるということでしたが、実態はもっとさまざまなものが障害となって簡単には受けられない、ということです。このようなことから110度CSデジタルもこの問題を片付けていかないと簡単にはいかない、ということです。


3 地上波デジタルテレビジョン放送
 東名阪で2003年までに、それ以外の地域では2006年までに放送を始めなさい、ということになっています。それ以外に高精細度テレビジョンを中心にやりなさい、多分50%以上になると思いますが、つまりハイビジョン中心ということです。さらに現在のアナログ放送の大部分の番組を含めて放送しなさい、と放送普及基本計画にあります。
 今年の2月の調査による国民の認知度はあまり高くはありません。見たい、という人は25%くらいです。
 放送局側の問題として 
(1) アナログ周波数変更対策
(2) あまねく普及の実現
(3) コンテンツサービス問題
 の三つあります。
一つ目のアナログ周波数変更対策とはなにか。
アナアナ変換という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、日本の地上波は1ch〜12chのVHF帯と13ch〜62chのUHF帯の二種類の電波を使って放送しています。
日本に15,000本の中継塔があり、ここからアナログ電波が出ているわけですが、ここにデジタル電波をいれないくてはいけない。日本は山あり谷ありの地形で、鉄塔が多いわけですが、1chあたり240本ほどあります。13ch〜32chにデジタルの鉄塔を割り込まなければなりません。そうしますとそこにあるアナログ電波にどいてもらわなければなりません。32ch〜62chへ移動してもらうわけです。しかしそこにもすでに電波があるわけで、それもどいてもらわなければなりません。このように玉突き引越しがデジタル電波を出すためには必要なわけです。これらの費用は当初の予算では出来ないということが判明しまして、これをどうやって実現するかの話し合いの最中です。7月中に解決策が発表されると思います。
 二つ目の問題が、あまねく普及をどうするかです。一つは僻地です。民放さんの地方局においては、2011年までにアナログを停波することになっていますが、それまでに鉄塔のデジタル化が出来ないという会社が沢山あります。
 もう一つが、都会の大きな建造物による難試聴です。アナログですとその大きなビルの所有者が電波障害原因者としてビル陰の難試聴の対策を立ててくれました。ところがビルが建っているところにあとからデジタル電波が出ますので、ビルの所有者が法的には電波障害原因者とは言い切れない、ということがあり、法的に、厳密に解釈していきますと、放送局がそれを配慮して電波を出さなければ、となりかねない。ということで地方の鉄塔の問題、中央のビル陰の問題がどう解決出来るかまだ決まっておりません。これを今後解決していかなければなりません。
 三つ目の問題ですが、電波がアナログ周波数変換が出来て電波を出せたとして地上デジタル放送が視聴者から見て魅力的な放送となっていて、皆さんが自発的にデジタルTVを買ってくれるか。まず地上デジタル放送はアナログと同じ6MHz帯を13セグメントに分けて、さまざまなサービスが出来るということをいま設定しています。
 13セグメントを全て使ってハイビジョン1chを放送する。13のうち12セグメントでハイビジョン1chと残った1chはMPEG4で簡易動画、つまり携帯電話などに放送する。またハイビジョンと標準TVをやる、というようにさまざまなやり方があります。これを踏まえてデジタル放送開始時にどのような放送をやりますか、ということを調査しました。
 NHKと民放キー局はハイビジョン1chと簡易動画1chを今のところ希望しています。ローカル局の皆さんは多くはハイビジョン1chと簡易動画1chですが、視聴者の立場から見た場合、デジタルTVにするときにアナログで見るものとほとんど同じものをデジタルで見ることが出来る、となりますと更に5万、10万出してデジタルTVを買うかとなるとそうはいかない。
 10年以上前からBSアナログが始まったり、90年代半ばからインターネットが登場したり、さまざまなメディアが進んで5,10年経っています。ところが約半分の家庭が地上波のアナログ放送しか見ていない、つまりメディア化、多チャンネル化と進んできたように見えますが、実は国民の半分は保守的であるということです。さらに調査の結果、国民の2割は、かなり頑固な保守層であることがわかりました。
 この問題は日本だけではありません。放送テジタル化の最先端国はイギリスですが、そのイギリスは放送開始後3年で4割の国民のデジタル化に成功しました。これに成功した政府が、残った5割、特に残った2割が、簡単にアナログからデジタルへ移行してくれないから、ここをどうしたらいいかと、政府,BBC、民間放送、メーカーがコンソーシアムを組んで検討を始めています。


4 ブロードバンド
 ブロードバンドそのものは現状では放送メディアでもなんでもありません。インターネットがブロードバンド化する、高速化するというメディアです。
 IT戦略会議というのがありまして、2005年までに4,000万の家庭をブロードバンド化する目標を立てました。国策です。うち1,000万は光ファイバーということになっています。分母が4,700万世帯、ブロードバンドは85%以上、光ファイバーで20%強というのがいま国策として進もうとしております。
 NTTが作った資料ですが、それによりますと東名阪は2003年末に46%の世帯が地上デジタルでカバーされます。2006年に他府県県庁所在地でデジタル電波が出ますと、68%の皆さんへ電波が届きはじめます。これに対してNTTの光ファイバーは2001年時点で既に36%の家庭の家の前まで光ファイバーが来ております。その他の地域でデジタル電波が出る前の2004年時点で、NTTの今の計画では82%の家の前まで光ファイバーが来ていますよ、というわけです。つまりNTTの思惑では地上波デジタルより光ファイバーの方が早い、ということです。これをデジタル放送のインフラで使ったら結構可能性があるのでは、という思惑を持っています。
 NTT以外でも東京電力ほか、電力系の皆さんも光ファイバーを討議していますし有線ブロードバンドのような事業者さんも光ファイバーを考えておられるようです。
 光ファイバーは放送インフラになり得るか、放送業界はIT網でコンテンツを送る気はいまのところありません。確実に届かないとか、著作権の問題が発生するとか、さまざまな問題があります。そういうところにNTT側は波長多重技術によって光ファイバーを放送インフラに使えますよ、と提示してきました。
 今までは一本の光ファイバーの中に一個の信号の光が入っていまして、それでブロードバンドインターネットが出来るようになったわけです。ところが一本の光ファイバーの中に三つの光信号を入れることが出来ますよ、一本の光ファイバーだが、異なる信号が互いに交わらなければ放送の皆さんも使えますよね、という提案です。
 実際にそれが出来ますと、どれくらいの容量になるか。ハイビジョン100ch、SDTV500chくらいが可能です。これが一本の光ファイバーの中に入ってそれ以外にブロードバンドインターネットも同居する、というインフラです。
 これは実験及び実際のサービスは始まっています。今年の2月NTTとスカイパーフェクトTVが四谷のマンション等にブロードバンドインターネットとスカパーの約300ch全てを送り込むという実験をしました。なぜスカパーをやったのかといいますと、集合住宅の屋上に地上波やBSやCSのアンテナを立てると、これを構内に同軸ケーブルで各家庭に送り込んでいるわけです。ところが今迄の集合住宅ではBSとスカパー、CSは空中上では電波の性質が違うものですから周波数は同じでも同居出来るんですね。ところがこれを同軸の中に入れますと同じ信号になってしまい、BS,スカパーの一部の信号は同居出来ないんです。つまりスカパーは集合住宅ではフルサービスは出来ないということです。
 これに対して今度の方式は、屋上にスカパーのアンテナは立てずにスカパーの信号を一回受けておいて、光ファイバーで四谷の電話局からそこのマンションまで波長多重で送り、ここでIT通信用と放送の信号を分けて、放送の信号だけを一本のケーブルにして大本のところにあけておく。ここでVHFとUHFの間、220MHzくらいだと思いますが、この中にスカパーの全チャンネルを入れると各家庭に届く、という方式で実験が始まっています。つまり光ファイバーと同軸の組み合わせで集合住宅はクリア出来ますよ、というわけです。
 実はこれは実験にとどまらず北海道の紋別郡西興部村という、人口1,300人、650世帯足らずの農村で、波長多重技術で各家庭に光ファイバーを引いてしまいまして実際にサービスが始まっております。
 このシステムですが、マルチメディア館を建てまして、ここでBSや地上波を受けておいて、紋別電話局からインターネットの回線を引き込み、ここは3波ではなく2波波長多重ですが、それで各家庭に端末をおき、電話用,TV用、パソコン用というように情報を分岐出来るようになっております。
 この村はもともと農水省の田園地域マルチメディアモデル整備仕様という、まるまる補助金で、13億円でスタートしました。ですからこれは一世帯あたり200万かかっているシステムですので、これは全ての村が出来るというものではありませんが、モデルとして国の金で作っています。この村の特徴として老人たちはパソコンをやりません。むかし、富山県山田村で全家庭にパソコンを揃えましたけれども、老人たちは一回も使わないままになってしまい、税金の無駄使いと批判を受けたことがありましたが、こういう事態をこの村はよく見ておりインターネットといえども全てテレビで出来るようにしておく、こういうシステムです。
 テレビですので複雑なことは出来ませんが、村にとって必要な情報は全てテレビでリモコン一個でとれます。それより高度なことをやる人はテレビでも出来ますが、パソコンでも出来ます。それぞれの人たちの要求に応じられるように作ったわけです。30chくらいの多チャンネルをやり、高度な人たちはパソコンでいろいろな情報を、そうでない人は老人にも簡単に使えるシステムもありますよ、というわけです。
 コンテンツ的には、この村ではビデオ・オン・デマンドが整備されております。村の役場の人たちがいろいろなイベントを撮ってきまして、朝昼晩放送というかたちで一週間放送します。一週間経ちますとそれぞれのコンテンツがビデオ・オン・デマンドになり、好きなときに見ていいですよ、と。これを本格的なシステムにしますとかなり高額になりますが、このシステムは先着順で7人まで受け付け、一人がリクエストしますとサーバーから再生されるんですが、全家庭に流れてしまいます。多チャンネルの全ての家庭に届くような方式です。8人目は、ちょっとお待ちくださいと、ビデオ・オン・デマンドの放送が終わるまで待ちます。これが以外と安上がりなシステムで650世帯くらいの規模ですと使えるシステムかな、と思います。
 先ほど、地上波デジタルの問題点のはなしをしましたが、都会のビル陰難視聴問題とローカル民放の皆さんが簡単に鉄塔をデジタル化出来ない問題と、過疎地のデジタル化をどうするかという問題ですが、この辺を波長多重技術は解決する一つの可能性かな、ということでご紹介させていただきました。放送局が独自でデジタル化できないところを電話サービスや高速インターナットなど、もろもろのサービスがあります。そういうシステムを導入するとき、NTTさんもコスト負担するとか、自治体が負担するとか、こういうかたちで地上波デジタルの問題をクリアできる可能性も出てきたかな、というおはなしです。
 CS,BS,地上波、ケーブルテレビのデジタル化がそれぞれ進んできました。それぞれのデジタル化にそれぞれの問題がある、ということも始まって2,3年の間に分かってきました。一つは国民の、視聴者の側をきちんとしないと送り手側の事情だけではデジタル化は出来ない、そこをよく考えてサービス設計しなければならない時代がやってきました。
 もう一つはデジタル化はコストがかかるものであること。ひとり放送業界だけでは出来ない、やはりこれからはフルサービス出来るようなインフラというものもじょじょに視野に入れて、コンソーシアムみたいに組んで協力してコストを分担していかないと100%は普及出来ないだろうと、こんな状態になっておりますので、2003年の地上デジタル電波が発信された以降、このあたりのやりかたが焦点となってデジタル化は進んでいくことになるのではないだろうか、と考えております。 
              まとめ 大野