(梶jハーツコーポレーション  柳川 孝行 
 
 幼い頃から機械いじりが好きだった私ですが、当時National製ラジカセのワイヤレスマイク(何MHzだったかは記憶にない)で、よく遊んでおり、近所の友人と一緒に、どこまで電波が届くかなんて事をやっていました。それがワイヤレスマイクとの最初の出会いだったと思います。
 中学生の頃には、友人と共にラジオステーションキットを購入・製作し、ラジオ局を開局したこともあり、電波とは切っても切れない関係なのかな?と最近つくづく感じております。
 まず、私の経歴を簡単に紹介いたします。昭和44年生まれ、現在33才です。私は、幼い頃から音楽が好きで学校での音楽の成績は、優秀の部類に入るものでした(自画自賛)。小学校の時より野球を始め、中学3年間・高校1年まで続けましたが、「音楽がしたい!」と突然思い、バイトを始めキーボードを購入しバンド活動を始めました。その勢いで、広島工業大学付属広島情報専門学校(現:広島工業大学専門学校)の音響芸術学科に入学し、音楽理論・音響・録音・照明など様々な勉強をしました。その間、広島にて開催された「海と島の博覧会」や、コンサート・イベントの音響のバイトに携わり、平成2年の春、株式会社ハーツコーポレーションに入社しました。
 入社当時、会社にはYAMAHA製の400MHzとPanasonic製の200MHzがありました。その後、800MHz帯のPanasonic製(B帯周波数固定)を、続いてRAMSA製(B帯及びA4帯)とSAMSON製(A4帯)を導入し、現在では、A4帯24本・B帯32本(スティック及びピン含む)を所有しております。
 入社したての頃は、専門学校を卒業したにもかかわらず、現場に出ると右も左もわからない状況でした。あるバンドコンテストの現場にてYAMAHA製のワイヤレスを使用することになり、あたふたした記憶があります。
 アンテナをどこに立てたらいいのか?受信機の設置場所は?電池を替えるタイミングは?等々・・・。先輩に聞いてみたところ、「アンテナはマイクに対して見通せる位置に設置し、なおかつ客席から見切れないようにするんだ!」と。そして「後はわしがワイヤレス仕込むけー他の所仕込んどけーよ!」とも。先輩に言われた所を仕込みつつ、ワイヤレスの仕込み状況をちょこちょこ見に行っては「ええけー早よー仕込めーやー!」と、怒鳴られたことも覚えています。当時は、「ワイヤレスの仕込みって面倒だなー」と思ったものでした。
 子供達がキャストのミュージカル現場に入ったときの事です。Panasonic製の800MHzを6波と200MHzを4波使用しました。当然ピンワイヤレスをキャストに仕込んでいくわけですが、現在のピンワイヤレスマイクとは違い、マイクヘッドは小指の先位の大きさでした。
 マイクの付け位置は額や耳の上などが主流ですが、当時そんな知識もない上、ましてやマイクヘッドが大きいためそんなところにつけられるわけがありません。すべてを衣装の襟元に装着し、リハーサルが開始されました。しばらくすると「ガサガサ・・・ガサガサ・・・」。衣装とマイクが擦れる音が・・・。何か方法はないか?と考えた結果、クリップホルダーに程良い長さのバインド線を束ねて巻いてくくりつけ、その先にマイクヘッドを固定するという方法を思いつきました。これが音的にはすこぶる良かったのですが、キャストのアクションで手が当たるという問題も発生し、位置を変更すると言うことで解消しました。ちなみに、その現場はステージが地下にあるため電波干渉などの発生もなく無事に終了することができました。このころからです。私がミュージカルにはまっていくのは・・・。
 広島市内にある大型ショッピングモールの周年イベントにて、ミュージカルを年に2回行っていました。私も音響チーフとしてその現場に何年か関わり、色々なことを学びました。その現場は周囲にテナントがひしめきあい、買い物をされるお客様でごったがえしていました。周年イベントと言うことでゴールデンウイークとクリスマス時期に行われるため、環境雑音・騒音にはひどく困ったものです。そんなオープンスペースに仮設されたステージ、そして階段状の客席。もちろんフェーダーを少し上げるだけでも色々な音がマイクにかぶってきます。「生声を基本にし、ピンワイヤレスでちょっとだけ稼げれば・・・」。甘い考えでした。確実に増幅・拡声しなければ全く聞こえない状況にあったのです。
 マイクの装着位置の検討・スピーカーの配置及び客席が階段状の為の角度調整・ハウリングマージンをどれだけ確保できるのか・・・。問題は山積み状態でした。
 色々検討した結果、ヘッドセットワイヤレスの採用で、様々な問題点をクリアすることができました。
 その他に、建物内にはステージから見通せる位置と距離にフィットネスクラブがあります。もちろんそこでもワイヤレスマイクが使用されており、周波数の計算もしなくてはいけませんでした。その施設ではB帯を2波、ミュージカルにはB帯を6波で、計8波同時使用でした。周波数計算表にて事前に計算し、事なきを得ました。しかし年月を重ねるたびに、周辺環境は変わっていくものです。近隣には大型パチンコ店もあり、混信していなかった周波数に、パチンコ店の音声が混信してくる!なんて事もあり、たびたび周波数計算をする羽目になりました。さらにその後、近くに携帯電話の基地局が設置され、基地局との混信と思われるような症状があり、頭を悩ましたこともあります。 
 位置的に見ても国道2号線が近くを通っており、トラック無線などが混信したこともあります。そんな過酷な状況下の中、特ラ連からいただいた数多くのアドバイスを持ちまして、無事業務を遂行することができました。ありがとうございました。その現場で得た知識や周波数計算などは、今でも立派な経験として活かされています。
 そんな経緯もあり、私はミュージカルの仕事がとてもやみつきになり、広島で開催されるミュージカル・オペラはもちろん、東京に行ったときにはミュージカル・芝居を多数観劇しております。もちろんコンサートやイベント等、見たり聞いたりと、ワイヤレスマイクが使用されている現場は本当に気になります。
 どんな機種を?どんな風に?こんな使い方もあるんだな、と。これだ!と思った事はとりあえず自分で実践しています。例えば、送信機側の出力を下げるのか、アンテナ側のパッドを使用するのか・・・。実際にやってみなければ結果は現れないものであり、ましてや目に見えない電波ですから、やってみないと判断できない。色々試行錯誤しながら、日々研究中です。
 一昨年に広島市民球場にて行われたイベントで、どうしてもワイヤレスマイクを使用しなければいけない場面がありました。球場は市内の中心地にあり、目の前には原爆ドーム、その周辺は繁華街、もちろん報道関係者もENGで取材に来るということで、混信の可能性もおおいにありました。
 1塁側ベンチにPA席を設置、内野にメインステージがあり、その袖にモニター席を設置。外野にはサブステージがあり、合唱隊などが外野席にて歌うという、いわば球場全体がステージといった感じでした。
 ワイヤレスマイクは、その球場内のどこでも受信しなければいけないと言う、非常に困難な条件付きでした。プランの段階で「受信機を各所に設置して、受信したところを拡声しよう」「アンテナを数メートルおきに設置してみては?」等、色々な意見が飛び交い、最後には「有線マイクに変更はできないのか?」そんな意見も聞かされましたが、あくまでもワイヤレスを使用という条件だったので、大変なプランでした。
 しかし、そんな問題をいっぺんに解決してくれたものが、テレビ受信用のアンテナだったのです。
 音響の雑誌で見かけたことがあり、それをヒントにアンテナを購入して、いざ実験!マイクスタンドにテレビアンテナとワイヤレスアンテナを取り付け、つなぎ込み、ワイヤレスマイクのスイッチを入れてみたところ・・・。すんなり受信するじゃーありませんか。その後、指向性があることを確認し「現場では、アンテナ担当者が、その時使用しているワイヤレスマイクの方向にアンテナを360度回し、追っかけよう!」と言うことに決定しました。仕込み・リハーサル・本番と、幸いにも外来電波を受信することなく良好な受信感度を得て使用することができました。テレビアンテナの指向性が他の電波干渉をふせいだものと思っています。
 それ以来、広いフィールドにてワイヤレスを使用するときは、この方法を用いて良好な受信状態を維持しています。
 さて、最後になりますがやはり受信機・送信機、それぞれに関わるもののメンテナンスについて書いておこうと思います。
 マイク本体ですが、メッシュのへこみはメッシュをはずして直し、汚れはアルコールを布や綿棒にしみこませ拭いています。匂いなどで不快感を与えないように気をつけています。
 一番気を遣うのは電極です。以前、電極の接触不良により、本番中に使用不能になったことがあります。原因がつかめず色々調べたところ、汗や湿気が埃と共に電極部分に付着し、接触不良をおこしていました。今では、市販の接点復活材を用いてこまめに金属部分を磨いています。それ以来、接触不良の症状は出ていません。
 受信機側もラックから取り出して埃を除去したり、チューナーユニットのコネクターがきちんと装着されているかなども調べたりします。ピンマイクのホルダーなども種類別に分類し、小さなビニール袋にいれて保管してあります。ピンワイヤレスの送信機を入れる小袋も製作し、ロック式コネクタータイプのベルトやゴムベルトで装着するタイプなど様々用意してあります。
 特製ヘッドセットも、使い勝手の良い一品です。園芸用品売り場で硬めの園芸用針金を購入し、ヘッドセット型に折り曲げて作りました。既製品では、子供に装着するとき頭のサイズが小さいため、ずれ落ちることがあります。このお手製のヘッドセットは、頭のサイズに合わせて変更できるので、重宝しています。
 マイクは、口元にくるあたりまでテープで固定し、ウインドスクリーンを被せています。耳に当たる部分には素材の柔らかいテーピングを巻いており、装着しても痛みを感じず、違和感の無いようにしています。それでも落ちるときは、ヘアーピンにてパチッと止めておきます。
 電池ですが、現在は金パナを使用しています。ランニングコストは非常にかかりますが、安定した電力供給と信頼性で決めています。現場でのチェックやリハーサルでは、中古電池の容量をテスターで計って使用しています。もちろん本番時には新品を使用しますが、これもテスターを当てています。
 以前、新品にも関わらず定格容量に満たないものがありましたので、新品だからといって安心してはいけないと思います。使えなくなった電池に関しては、ゴミ処理業者にお願いをし、適切な処理を行ってもらっています。環境破壊にもなりかねない電池の後処理は、きちんとしていると自負しております。
 時代は、どんどんデジタルへと移行する中、ワイヤレスマイクもデジタルへと移行を開始している頃だと思います。
 インナーイヤーモニターなど、日本国内でも活用され始めており、我々地方の業者としても、その情報・知識を常に取り入れ、活用していきたいと思っております。そして、今後ともワイヤレスマイク自体・会員各社の皆様・特ラ連と共に、わがハーツコーポレーションも発展していきたいと思っております。