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 平成13年11月28日、NHK青山荘一階ホール「欅」で行われましたセミナーの概略をお伝えします。出席者52名でした。
 まず八幡理事長が、特定ラジオマイク利用者連盟発足当時の背景を説明し、「FPUと同一チャンネルであるため、お互いに紳士協定にもとづいたモラルの確立が顕著な効果としてあらわれてきている」と挨拶しました。以下当日の講義の概略をお伝えします。

1 「特ラ連と運用連絡」 講師 根本特ラ連専務理事
 運用連絡の仕組みをスライドで画面を拡大映写してわかりやすく解説しました。会員の皆さん並びに各放送局より毎日送られてくる約130件のFAXによる連絡が、どのように処理されているか、理解いただけたものと思います。

2 「ラジオマイクとFPUの干渉について」 
講師 NHK技術開発センター ニュース・番組技術 工学博士 伊藤泰宏氏 
 伊藤さんが作られた図解をもとに解説していただきました。
 いろいろな利点を持つデジタルFPU(OFDM-FPU OFDM=Orthogonal Frequency Division Multiplexing 周波数直行分割多重変調)の解説をメインに、ラジオマイクとFPUの関係を解説していただきましたが、OFDMの9MHz 幅をフルに使用する放送局と8.5MHz幅で、前後合わせて500KHzの余裕を持たせて使用する放送局があるそうです。この場合は理論的には両サイドに一波ずつ使えるという裏話も披露されました。
OFDMは、帯域内の544本のキャリアがすべて電波を出し、お互いに補完しあっており、仮に一部分のキャリアのデータに不都合があったとしても誤り訂正がなされます。これはデジタルのメリットです。アナログFPUは中心周波数を軸にして両端は下がっており、したがって中心周波数付近で影響を受けやすくなる、といえましょう。ナローレンジのため、両サイドはもちろん、ひょっとすると4本くらいワイヤレスマイクが使えるかもしれません。ただしS/N比の問題は残りますが。
また、OFDMとラジオマイクを同一チャンネルで使用した場合、お互いに最良な受信状態を得るためには3km、OFDM1chワイヤレスマイク2ch等の隣接チャンネルの場合、1kmの距離が必要であります(受信機熱雑音-10dBとして)。しかしこれはいずれもフルパワーの時であり、FPUの出力をダウンし、またラジオマイクの受信機感度を下げることにより、この数値は変わってきます。(マイク側の受信機熱雑音を15dBマージンに仮定すれば、野外においては800mでも大丈夫では、という話をあとで聞きました)
 放送局の方々は日常のことでしょうが、会員の皆さんには少々難しかったようです。
 以上が、ラジオマイクとの関係の解説の概略です。

3 「ライブ演奏によるイヤモニ運用の実際と試聴」
講師 (株)共立   舞台制作事業本部部長 加藤 明氏
講師 バルコム株式会社 営業部第2課課長 甲田 乃次氏
 イヤモニについては、バルコムの甲田さんから法改正に至るまでの歴史的背景の説明と、ミュージシャンのモニタリングには低音成分が必要である、という骨伝導理論の解説をしていただき、また実際にイヤモニを耳につけてシェイカー(板状のもの足の下に敷き、アンプで増幅する)というサブウーハーからの低音を出席者に体験していただきました。
 アコースフィア(ギターデュオ)のお二人に実際にイヤモニをつけてもらい、その電波を15台のイヤモニで受信し来場者の全員に聞いていただき、共立の加藤さんから注意点およびメリットを解説していただきました。
 実際の使用者であるアコースフィアの奥沢さんから原稿をいただきましたので、掲載します。

「イヤーモニター for ミュージシャン」 アコースフィア 奥沢 茂幸
 僕とイヤーモニターとの出会いは今から5年程前でしょうか。憧れているミュージシャン「タック&パティ」のライブを見にいった時、彼等の耳もとにさりげなく装着されているイヤーモニターを見て、「いったいアレは何だろう?」と非常に興味を持ち、全ての芸術は模倣から始まると考えていた僕は、彼等のような素晴らしい音楽や感動を自分で伝える事ができるようになるには、あの「イヤーモニター」という機材が絶対に必要だと思い、インターネットで探しまくったのでした。
 楽器屋さんなどで聞いてもなかなかイヤーモニターの事を知っている人もいなく、ましてやその運用のノウハウなどを持っている人は皆無の状態で、一時は使用を諦めてしまいそうになりましたが、運良くGarwood社のホームページを見つけ、そこからバルコム社の甲田さんの事を知り、ようやく手元に憧れの機材を入手する事ができたのでした。
 しかし憧れのイヤーモニターを手に入れてはみたものの、その正しい使い方についての知識がない僕は、一から試行錯誤して使い方を学んでゆかなくてはならなかったのです。
 すごい可能性を秘めた機材があっても、そのコントロールの方法がわからなくては意味のないものになってしまいます。そういう意味からも今回のセミナーはイヤーモニターの正しい運用や可能性についてディスカッションできた素晴らしいセミナーであり、是非イヤーモニターを使いたいと思っているミュージシャンの方に体験してほしいと思いました。
 イヤーモニターを採用することで最も恩恵を得るのは演奏するミュージシャンです。
 ライブハウスでのウェッジを使った環境ではどうしてもできなくなってしまう事が多々あります。
 例えばアコースティックギターの生の響きを伝えたい、しかし周りにバンドの音があるためにコンデンサーマイクが使えなくてピックアップでの音にせざるを得なかった。このような状況の時でもイヤーモニターを使ってステージの音環境を整理すれば望み通りのサウンドを作る事が可能になります。 そうなればアーティストが自分の作品として思いを込めて作ったものを、一番自分が届けたい形で観客のみなさんに伝える事ができるようになる訳です。本来持っている音楽の力をちゃんとした形で届けることができる、そしてより深い感動を与える事ができるようになるのです。
 また僕がサポートとして演奏するなかで体験してきた事ですが、イヤーモニターからは他の楽器奏者や歌手の方の繊細な音までクリアーにモニタリングすることができます。
 例えば歌手の方の息継ぎの音が聞こえ、それにより相手が感じているテンポ感やグルーヴにピッタリシンクロさせてゆくことができ、レベルの高い演奏を届ける事ができるのです。ウェッジでの音環境ではたくさんのスピーカーから音が乱れ飛んでおり、誰かがミックスを変えるとそれが自分のモニタリング環境にまで影響を及ぼしてしまいますが、イヤーモニターを使えば完璧に自分の好きなミックスや音圧感を得る事ができます。例えばアーティストがコーラスの人が歌うメロディーにひっぱられてしまうなどという場合も、イヤーモニターならば自分のほしくない音は完全にシャットアウトすることもできます。
 このようにミュージシャンが音楽をクリエイトしてゆく中で、イヤーモニターがくれる選択肢や可能性はたくさんあります。その事にもっともっと多くのミュージシャンが気付いて、イヤーモニターにチャレンジしてほしいと、あえてミュージシャンの方々に伝えたいと思います。
 たくさんのミュージシャンとイヤーモニターについて話をしてきましたが、長年ウェッジにおける環境に慣れ親しんでしまったせいでしょうか、イヤーモニターに対する否定的
な見方が非常に多いように僕個人としては感じて来ました。それは耳を閉息して音を聞くという感覚がレコーディングなどの感覚に近くてライブな感じがしないなどという固定観念だと思います。しかし僕自身、イヤーモニターと付き合ってきて今確実に言えるのは、そういう固定観念が間違ったものであると言う事です。イヤーモニターは決して演奏者同士や観客とのコミュニケーションを妨害するものではありません。むしろその逆で、より良いコミュニケーションをとることができる為の道具であるという事を知ってほしいと思います。そしてこのようなセミナーに出席して正しい運用をされたイヤーモニターがどれだけパワフルな機材であるかを感じる事ができれば、きっと固定観念も吹き飛んでしまうのではないでしょうか。