講師: 半田 健一 尚美学園大学 芸術情報学部情報表現学科教授
飯田 幹夫 ソニーサウンドコミュニケーション株式会社 商品一部部長付
八幡 泰彦 株式会社サウンドクラフト代表取締役会長 特ラ連理事長
目次に戻る
 去る6月20日,「特定ラジオマイク利用者連盟(特ラ連)」の平成13年通常総会が,東京都北区の北とぴあにおいて開催された。総会終了後、セミナーが開催されたので概略を伝えよう。
 八幡氏の、日本におけるワイヤレスマイク運用の黎明期の苦労話に始まった。当時は真空管を使用した送受信機で安定度が悪く、離調しては追いかけるのが日常的であったという。またダイバシティ方式はこのころすでに開発されていたそうだ。周波数は40MHz帯を使用していて、タムラ、イケフジ、JRCなどの製品があったという。ワイヤレスマイクはもともと声の小さいテレビ俳優の明瞭度向上のために使用されていて、ワイヤレスマイクを使用するのは沽券にかかわると、使用を拒否する俳優もいたという。しかしのちにはその俳優もワイヤレスマイクを要求するようになったそうだ。
 また当時のワイヤレスマイクは消費電力が大きく、高価な水銀電池を必要としていたのは悩みの種であったという。
 1986年の法改正以前には、ホール協会に当時の郵政省からワイヤレスマイクの現状の調査依頼があった。当時都内のある劇場の演目では、38本のワイヤレスマイクが運用されていたところ、自主規制で4本しか使っていないと報告したという。これを受けて郵政省は4波以上は必要ないとの考えに至り、さらにホールと劇場では高品位のワイヤレスマイクは不要との見解を持つようになった。しかし半田氏によれば、ホール協会としては最低でも6波欲しいとの見解であったという。

 当時飯田氏も放送局での運用状況を調査していて、特に新たな周波数帯域の可能性を探っていた。そして470〜480MHzのUHF帯の空きチャンネルに注目したが、UHFの多段中継を行っている地域では使用できないため、それ以上の帯域を使用することが決定的となっていく。
 1GHzの実験局や当時アメリカのレーガン大統領の演説に使用された950MHz/500mW試作ワイヤレスマイクなどの経験を経て、今日の800MHz帯の基礎研究がなされたのはこのころである。もし当時UHF帯にワイヤレスマイクの専用帯域が設定されていたら、運用調整は必要なく、特ラ連も存在しなかったであろう、とも言われる。
 1986年の電波法改正以降、最終的に免許の必要なA型と、誰でも使用可能なB型が800MHz帯のラジオマイクとして認可され今日に至っているが、特ラ連の働きかけによりA型2帯で71チャンネル、A型4帯で71チャンネル使用可能となった。しかし現場で干渉なしに使用できるのは2帯と4帯それぞれ10チャンネルずつ、合計20チャンネルに過ぎない。 
 テレビ中継などに使用されるFPUおよび近隣ワイヤレスマイクとの運用調整を行えば、使用可能チャンネル数はさらに少なくなるのが現状である。
 この非常に限られた電波の割り当てが、日本のメーカーのワイヤレス技術を鍛えていくことになる。アメリカでは1Wもの空中線出力のワイヤレスマイクが運用されているが、日本ではわずか10mW以下に定められている。しかし長い間免許不要な微弱電波での運用に鍛えられてきた日本のワイヤレスマイクメーカーは、今や世界でもっとも高い実力を持っていると言えよう。
 1999年、電気通信技術審議会が「1.2GHz帯以下の周波数を使用する小電力無線設備の高度化のための技術的条件」の審議を開始し、そのなかで,欧米で主流となっているイヤー・モニターの運用実現に向けて「ラジオマイクのステレオ化等」の審議項目が検討された。そしてステレオ伝送のできる新しい設備として「イヤー・モニター用ラジオマイク」が答申され、翌2000年には電波法改正および施行されている。
 イヤー・モニターは、日本でもステージ演出上、その運用が望まれてきた。認可されたイヤー・モニターはA型と同じ帯域を使用するので、同時に使用できるワイヤレスマイクの本数が減ることになる。これを避けるために赤外線化も大いに検討されているが、アーティストの顔の向きによっては通信が途切れることがあるという。しかし多チャンネル化が容易なこと、電波法の規制を受けないのは非常に魅力で、将来有望とのことである。
 最後にワイヤレスマイクのデジタル化について若干の意見が出されたが、現状では電力消費が大きく音質的にも未完成なため、実用化はまだしばらく先のことになりそうだ。
 現行電波法において、ワイヤレスマイク専用の周波数帯域が割り当てられればそれに越したことはないが、ハードウエアの新開発で当然費用が必要になる現状がある。一方特ラ連発足以来10年間、緻密な調整とモラルの呼びかけで、あまり費用をかけずにうまく運用してきているため、これからも特ラ連の存在がますます重要になってくることと思われる。 (桂川)

 誠文堂新光社「無線と実験」8月号に掲載されたものを同社のご好意により転載いたしました。