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究極のラベリアタイプ・ワイヤレスマイク

山中洋一様ミュージカルやオペラのワイヤレス・オペレータにとって、究極のラベリアタイプ・ワイヤレスマイク(以下ワイヤレス)とはどういうものだろうか。

 一般にオーケストラ等の楽器のミキシングでは、サウンドエンジニアが使用目的によりマイクを選定して(全ての用途に適応出来るマイクが無い)収音し、イコライザー等のエフェクターで音色・音質を調整してイメージの音に仕上げる。一方ワイヤレス・オペレートでは音声を調整しているので、声がこもったり鼻詰りの無いようにすることが主で、リバーブ効果以外でエフェクター類を使ってのサウンド創りをすることは、特別な演出効果を必要とする場合以外はまず少ない。創り込むというよりもナチュラルな音に近付けるミキシングであり、言い換えれば、上手いオペレートとはマイクを感じさせない声(音)のミキシングということになる。通常ワイヤレス・エンジニアとかワイヤレス・ミキサーではなく、ワイヤレス・オペレータと呼ぶのはそういった意味合いからではと思う。

 音声をHi-FiにPAするワイヤレス・オペレーターにとっての究極のワイヤレスは、「ダイナミックレンジが広く」、「平坦な周波数特性」、「髪の毛のような細いヘッドとケーブル」、「汗に強く」、「帽子や眼鏡等を着けても音質が変わらない」(位相変化による音質の変化)、そして採りたい音だけを選別して収音出来る知能(?)を持ったマイクロホン。
「安定した送受信」、「小型でフィルムのように薄くて軽い」、「衝撃に強く」、「長時間の使用が可能」なトランスミッター&チューナ、等々であろうか。
 そして、それを使っての究極のオペレートは、例えば、声が若いのでもっと貫禄ある声にとか、渋みのある声にとか、艶っぽく等々、声を単に拡声するだけではなく、音声で芝居をさせる、即ちキャラクター的表現のミキシングと考える。音声操作がサービスから一歩進んだクリエティブな表現を担うようになった時、現在はPAのクォリティーや見かけの問題、また、なによりもマニアックな観客の生音信仰(PAアレルギー)があって、イベント的な作品や公演以外ではワイヤレスを使用することが少ないオペラやクラシック等基本が生音のジャンルでも、積極的にワイヤレスを用いた公演が多くなるのではないだろうか。
 技術的な側面と操作的な側面からイメージしたが、究極と呼ぶ為には忘れてはならないもう一つの側面がある。それはなによりも使い勝手や運用面での充実が不可欠であると云うことである。性能がアップしてチャンネルも40ch、50chが当たり前に使えるようになれば、結果、製作・演出サイドの都合や要求で現場のチャンネル数が増えるのは容易に想像つく。
 これだけの性能を持ったワイヤレスマイクが幾らで手に入れることが出来るのだろうか。
 民生器のCDプレーヤのように手ごろな価格で購入することはまず無理で、40ch、50ch揃えるには数千万からもしかしたら億の投資となる。使用頻度や運用効率、また相手に請求出来る金額を考えると1カンパニーでは相当きつい買い物である。結果、ミュージカルを出来るカンパニーが限られてしまい、人々の娯楽として、文化として、芸術として、またステージを生業としている業界全体としても非常に問題が多いと云える。したがって、今後はチャンネルの割当て管理だけではなく、機材の運用やレンタル料の設定等、総合的管理運用を考えて行くことが必要となってくるのではないか。そういう意味では、これからの特ラ連の立場や担うべきことは大変肝要であると考える。

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